トランプ氏の「領土発言」に込められたプーチン氏へのメッセージ
実は、トランプ氏がウクライナへの大規模軍事支援と、ロシア本土に対する米製長距離兵器の使用奨励をにおわせる“シグナル”ではないか、と筆者が考える発言がある。
今年1月上旬にトランプ氏が会見でぶち上げた、領土譲渡に関する2つの驚きの要求で、1つはデンマーク領グリーンランドを安全保障上重要なので譲れ、というもの。
もう1つは、パナマ運河はアメリカが建造し、周辺地域は「運河地帯」として領有・管理しており、1999年に譲渡。だが近年は中国資本が進出し、通行料も「ぼったくり」の高額なため、安全保障上の観点から返還しろ、というもの。
どちらの要求も19世紀の帝国主義を彷彿させるような時代錯誤で、世界中からひんしゅくを買っているが、応じない場合は軍事力の使用もほのめかすほどの気合いの入れようだ。
デンマークはNATO加盟国でアメリカの同盟国、パナマもアメリカが主導し集団安全保障を目指す米州機構(OAS)のメンバーで友好国だが、それでも取引に応じなければ、軍事力行使も辞さないとの意思表示は、デンマークやパナマに対してというよりは、むしろロシアや中国に対する警告では? とも思えてならない。
「同盟国・友好国といえども、いざとなれば軍事力行使を躊躇しない。ましてや敵対国の中露はなおさらだ」というメッセージを込めているのではないだろうか。
本格始動する「トランプ2.0」のウクライナ戦争停戦実現のための大作戦だが、果たして6カ月以内にまとめることはできるのだろうか。
【深川孝行(ふかがわ・たかゆき)】
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。