トランプ氏の言動の背景にある3つ目の理由

前嶋:非常事態関税などを使っていくのも、その1つの案です。安全保障では大統領に権限があるので、グリーンランドやパナマ運河の件を突き上げることで、自分で動かせる部分に取り組もうとしている。

 3つめは、ジミー・カーター元大統領の国葬です。人権を重視していたカーター元大統領とトランプ氏は仲が悪かった。自分が嫌いだった人物がテレビジャックをしてしまう。報道が国葬一色になってしまいますから。

 しかも、このタイミングで亡くなったので、就任式で国旗を半旗掲揚にしなければなりません。「大嫌いなカーターのために、なんでオレが犠牲になるのか」という思いがある中で、大きなことを言って、自分の方に世の中の注意を引き付けたい。タイミング的に今仕掛けるのがちょうどいいのです。

──議会を頼りにできないから、大統領令で変えていくしかないということは、トランプ政権では大きな変更はあまりできないということですか?

前嶋:トランプ次期大統領はそうなることを、ずっと前から予想していたと思います。上院は今、共和党が53議席で、民主党が47議席です。共和党が多数派を奪還しましたが、奪還できることは改選議席が民主党に偏っていたので2年前から分かっていました。

 ただ、フィリバスター(合法的議事進行反対)を使えば、41票あれば59票を止めることができる。共和党が60票を持つことなど想定していませんでしたから、最初から議会は動かないものと考えていたはずです。

 移民の問題は安全保障の問題として対応できます。規制緩和などを使えば、国立公園でのシェールガスの掘削なども可能になる。こうしたことは大統領令の下で運用可能です。

 一方の関税は議会を通して決めることですが、かつてのスーパー301条のように、安全保障の問題として関税措置を発動できる。トランプ氏の公約はほとんど大統領令でできるものばかりなのです。

 2017年に始めたトランプ減税の延長に関しては、議会を通さないわけにはいきませんが、むしろこれは議会で通る可能性があります。上院では1年に1回、財政調整と認められるものは、単純過半数(60票ではなく51票)で通すことができます。その仕組みを使うつもりだと思います。

 トランプ次期大統領は「財政調整に移民の問題をくっ付けることができないか」と言い始めています。つまり、議会がどう動くかを計算しながら立ち振る舞っているということです。