田沼意次の経済政策が重三郎の出版活動の追い風に
吉原にはそんな華やかな花魁がいる一方で、「切見世(きりみせ)」と呼ばれる最下級の遊女屋もある。病を患ったり、客がつかなくなったりすると、切見世へと追いやられていくことになっていた。
切見世は「局見世」(つぼねみせ)や「河岸見世」(かしみせ)とも呼ばれており、今回の放送では、河岸見世の女郎たちの惨状を見て、重三郎が思い悩むシーンがあった。
吉原の遊女たちが食事もままならない現状はおかしい――。重三郎は意を決して、老中である田沼意次に直談判を行う。非公認施設を取り締まる「警動(けいどう)」を行ってほしいと物申したが、即時に却下されてしまう。
意次からは「人を呼ぶ工夫が足りないのではないか」と問われて、重三郎がハッとするシーンがあった。もちろん、このやりとりはフィクションだが、意次の経済政策が重三郎の出版活動の追い風になったのは確かだろう。当連載では、意次の経済政策についても解説を行っていきたいと思う。
次回は「吉原細見『嗚呼御江戸』」。吉原に人を呼ぶために、出版人として重三郎は画期的な方法を思いつくことになる。
【参考文献】
『江戸の色町 遊女と吉原の歴史 江戸文化から見た吉原と遊女の生活』(安藤優一郎著、カンゼン)
『図説 吉原遊郭のすべて』(エディキューブ編集、双葉社)
『蔦屋重三郎』(鈴木俊幸著、平凡社新書)
『蔦屋重三郎 時代を変えた江戸の本屋』(鈴木俊幸監修、平凡社)
『探訪・蔦屋重三郎 天明文化をリードした出版人』(倉本初夫著、れんが書房新社)
『なにかと人間くさい徳川将軍』(真山知幸著、彩図社)
【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。