江戸時代から続いた吉原遊郭の守護神「吉原神社」江戸時代から続いた吉原遊郭の守護神「吉原神社」(写真:共同通信社)

 NHK大河ドラマ『べらぼう』が1月5日よりスタートした。主役は、江戸時代中期に数多くのクリエイターをプロデュースした蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)だ。第1回「ありがた山の寒がらす」では、「蔦重(つたじゅう)」こと蔦屋重三郎が茶屋で働きながら貸本業を営んでいると、女郎たちの置かれた悲惨な状況を目の当たりにすることになり……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

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「江戸三大大火」の一つとされた「明和の大火」

 まだ前作の『光る君へ』の余韻が冷めやらぬ中、NHK大河ドラマ『べらぼう』がスタートした。

 舞台は江戸時代中期となり、平安時代を描いた『光る君へ』とは時代的に大きく隔たりがあるものの、両時代には共通点がある。それは貴族社会である平安時代と、「天下泰平」を謳歌した江戸時代の元禄期が、ともに「戦がない時代」ということだ。

 しかし、だからといって物語が平和であるとは限らない。『光る君へ』も油断して見ていたら、初回のラストシーンでまひろ(紫式部)の母が殺されるというショッキングな事件が起きて驚かされた。

『べらぼう』に至っては、大火事に逃げ惑う人々のシーンからドラマが始まり、女郎たちの置かれた過酷な状況がリアルに描写された。女性の裸の死体を転がすという演出にはSNSで賛否両論が湧き起こったが、思わぬシリアスな展開に『光る君へ』と同様に惹きつけられた視聴者が多かったようだ。

 冒頭の大火事は「明和の大火」で、明和9(1772)年、現在の目黒区にあたる「目黒行人坂」の大圓寺にて出火したことから「目黒行人坂大火(めぐろぎょうにんざかのたいか)」とも呼ばれる。明暦の大火(1657年、別名「振袖火事」)や文化の大火(1806年、別名「丙寅の大火」)とともに、「江戸三大大火」の一つとされている。

「明和の大火」によって、現在の麻布、芝から日本橋、京橋、神田、本郷、下谷、浅草と下町一円まで焼失してしまったというからすさまじい。死者は約1万5000人にも及び、僧が放火したのが原因だったという。

 今回の大河ドラマの語りは、綾瀬はるか演じる九郎助稲荷(くろすけいなり)で、人の姿に化けたキツネの化身が、吉原について解説を行った。

「明和(めいわ)9年……迷惑年!? まこと迷惑極まりないこの大火は……」という語りもあったが、ドラマの演出で無神経なダジャレを放ったわけではない。実際に江戸の庶民は「迷惑な年だから、こんな火事が起きたんだ」とうわさし合ったと、寛政3(1791)年に成立した随筆集『翁草』でつづられている。

 そんな庶民の声を無視できなかったようで、火災のあった年の11月に「明和」から「安永」に改元されることになった。