「彼には4年しかない」

──トランプ氏は、不法移民の大量国外追放を宣言しています。年間100万人のペースで不法移民を国外に強制送還すると語っています。

ボルトン:不法移民対策は、2015年から一貫して彼の公約の中心です。ここは本気で取り組んでいくでしょう。彼のアドバイザーたちはこの4年間、米国土安全保障省のスタッフなども織り交ぜ、現状に合った形でどのように対応できるか、協議してきたと思います。

 第一次トランプ政権では、早い段階でイスラム圏5カ国からの入国制限措置を出しましたが、ごく短い期間で失敗に終わりました。今回の大量国外追放もどうなるか分かりませんが、大きな議論を巻き起こすのは避けられないでしょう。

 そして、大量強制追放に成功しようが、執行上の問題で失敗しようが、政権の行方を大いに左右することになるでしょう。

 彼は新しい大統領であると同時に、レームダック状態の大統領でもあります。既に大統領を一期やっているので、ここから続いて二期やることはできません。彼には4年しかないのです。

 トリプルレッドと言われる状況ですが、下院ではぎりぎり過半数です。2026年の中間選挙では覆されてしまうかもしれない。こう考えると、トランプに実行可能な幅はそう大きくありません。不法移民の国外退去政策で失敗すれば、大きくその後に影響するはずです。

──国境の壁を建設したり、国内の不法移民を特定して拘束し、強制的に送り返したりする作業は、とても時間もお金もエナジーも伴うものです。であれば、不法移民を雇用している経営者たちに罰金などのペナルティーを課すなどの処置をしたほうが、はるかに確実に簡単に不法移民を追い出せると思うのですが。

ボルトン:私はその時に米司法省にいましたが、実は1986年にその措置が行われました。移民改革規制法(IRCA)は、まさに不法滞在者を雇用した者にペナルティーを課す法律でした。でも、この措置は大失敗に終わりました。強制力が無かったからです。

 米国には不法移民への対応に失敗してきた長い歴史があります。合法の移民の流入さえ、うまくコントロールできているとは言えません。

 個人的な考えを言えば、米国は合法的な移民の枠を大胆に拡大すべきです。この国にはもっと人が必要です。出生率は1.8%台で、日本ほどには落ち込んでいませんが、かなり低い。米国に来たいという人をもっと受け入れていく政策こそ、むしろ必要だと私は思います。

ジョン・ボルトン
元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)
1948年、ボルチモア生まれ。成績最優秀者の一員としてイェール大学を卒業した後、同大学ロースクールを修了し、法務博士(J.D.)を取得。前職はトランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官。2005年から2006年までは、駐国連米国大使を務めていた。長年にわたって公職に就き、レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュの3政権でいずれも高官ポストを占めた。弁護士でもあり、1974年から2018年にかけて、公職に就いている期間を除けば、ワシントンD.C.で弁護士業に従事している。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。