「新閣僚候補6人」の厄介な言動と人物像
この後、人事はどんどん進んだわけだが、最初に明らかになった閣僚の顔ぶれの中で上院の承認が問題になる閣僚は6人存在した。ピート・ヘグセス国防長官、マット・ゲーツ司法長官、ロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官、トゥルシ・ギャバード国家情報長官、カシュ・パテルFBI長官、クリスティ・ノーム国土安全保障省長官である。
このうち、まずゲーツ氏は下院議員の立場から指名されたが、ウクライナ支援に反対派である点が重要なポイントだった。ところが、未成年の女性に対する性的人身売買容疑で司法省の捜査対象になった過去を米議会に調査されそうになり、下院議員の職を辞した。結局、トランプ陣営はゲーツ氏を引っ込めて、代わりに南部フロリダ州の前司法長官で、トランプ氏の弾劾裁判で弁護団の1人を務めていたMAGA勢力のパム・ボンディ氏を指名した。
ゲーツ氏は12月10日にネット番組のニュースショーの司会者に転身したことを明らかにした。「トランプ陣営に深い情報源を持つのでトランプ政権の一挙手一投足をお伝えしたい」と、トランプ政権の後方支援を行う考えを明確にしているが、転んでもタダでは起きないと妙な感心のされ方をしている。
また、元米陸軍の州兵で前FOXニュースのキャスターだったピート・ヘグセス氏は、典型的なMAGAであり、国防長官に指名されたものの、過度の飲酒癖などが問題視されている。果たして公聴会を開くまでの展開はあるのか、ヘグセス側は議会承認に向けて支援を求め、活動を続けている。
厚生長官に任命されたロバート・ケネディ・ジュニアは、故ケネディ大統領の甥であり、「ケネディ家の異端児」と呼ばれる人物だ。トランプ氏と予備選挙を争って結局トランプ氏の軍門に下ったため、功労賞人事として厚生長官に指名された。エビデンス(科学的根拠)もなく、小児ワクチン反対論を拡散する陰謀論者であり、上院で承認された後も関係各所に混乱をもたらすだろうと言われている。
国家情報長官に指名されたトゥルシ・ギャバード氏は、閣僚クラスの顔ぶれの中では“大人”である。筆者は彼女が女性初のアメリカ大統領にふさわしいと思っているが、ハワイ出身の元下院議員としての“過剰な”行動力が、問題視されてもいる。
シリアのアサド大統領に会いに行ったり、ロシア政府の「ウクライナには化学兵器工場があり、これを破壊するために軍事侵攻した」というでたらめな言い訳を拡散したりするあたりが政治家としての経験の薄さからくる脇の甘さにつながっている。ただし、MAGAでもオルバン主義者でもなく(ちなみにオルバン主義に反対はしていない)、そうしたところが“大人”と見なされるゆえんだ。
民主党は、かつて党員だったギャバード氏を裏切り者と考えており、あることないことを撒き散らして上院での承認を難しくしようと画策している。
そして、FBI長官に指名されたカシュ・パテル氏こそ、第1次トランプ政権で自分の足を引っ張った「敵」への“復讐”の意欲を形にした存在だ。
トランプ氏は自分が任命し、まだ任期も人気もあるクリストファー・レイ現FBI長官がトランプ氏に機密情報持ち出しの容疑をかけて、フロリダのマー・ア・ラーゴの別荘を捜索したことを批判しており、任期を残したままレイ氏に辞任する考えを示させるところまで追い詰めた。
後任に指名したパテル氏はFBIを敵視し、本部を解体する考えを示してきた人物。FBIに大きな動揺が走っており、彼が承認されるかも焦点となっている。ちなみにパテル氏は骨の髄までMAGAの存在である。
さらに、サウス・ダコタ州知事から国土安全保障省の長官になるクリスティ・ノーム氏は、トランプ氏が一度は副大統領候補に選びかけた人物で、MAGA支持者たちの女神のような存在である。過去に、しつけにならない自分の仔犬を銃殺したことがあると自伝で明かしたことで全米が引いてしまい副大統領にはなれなかった。移民に極めて厳しい姿勢を取っており役割にぴったりにも見えるが、ドライな性格が移民相手に暴走する懸念を指摘する声も少なくない。