トランプ氏が重用するMAGAから移行した「オルバン主義者」

 次に、それでもトランプ氏は過去6年ほどで変容したMAGA (=Make America Great Again:「アメリカを再び偉大に」)の集団、すなわちロシアのプーチン氏を見据えた“オルバン主義者”の閣僚配置をやめなかった。第2次政権では、安全保障問題を担当するマイケル・ウォルツ国家安全保障担当補佐官もジョン・ラトクリフCIA長官もオルバン主義者である。

マイケル・ウォルツ氏マイケル・ウォルツ氏(写真:AP/アフロ)
ジョン・ラトクリフ氏ジョン・ラトクリフ氏(写真:AP/アフロ)

 もっともトランプ氏はもうMAGA勢力を大事にする必要はないと考えているのではないか。彼はビジネスパーソンであり、再選するという仕事にMAGAの1票は必要だったが、4年後の再々立候補ができない以上、今後は中間選挙の対策レベルで必要なだけである。

 トランプ氏はニヒリストであり、ビジネスの付き合いはドラスチックなので、MAGAとしての存在は、もはやトランプ氏にとって時々の応援団以外の意味はないだろう。

 他方、MAGAから移行したオルバン主義者はトランプ氏がなおも重視する存在だ。オルバン主義者については、2024年10月に発刊した拙著『トランプVS.ハリス』(幻冬舎新書)で詳しく書いたので、そちらを読んでいただきたいが、トランプ氏がワシントンからの疎外感で苦しんでいた第1次政権の後期で、「あなたは偉大な人物だ」と甘い言葉を重ねて擦り寄ってきたのがハンガリーの独裁者、ビクトル・オルバン首相である。

ハンガリーのビクトル・オルバン首相ハンガリーのビクトル・オルバン首相(写真:ロイター/アフロ)

 政府をすべて大統領の配下に従えて、自分に反対するマスメディアを抑圧するようなオルバン流の強権的な「政権運営」こそ手本にすべきだ、とのトランプ氏の考えを支持・実行する議員や共和党員らをオルバン主義者と呼ぶ。

 トランプ氏と親しくなったオルバン氏はプーチン氏を師と仰ぐ存在なので、トランプ氏とプーチン氏の伝令役も務めている。ちなみにオルバン首相は今年に入って2回もフロリダ州にあるトランプ氏の別荘を訪ねている。

 さらにオルバン首相は、米大統領選挙の投開票日の直前にも「偉大なトランプ大統領がウクライナの問題で和平案を実行する努力をされると信じている」と発言している。これは裏読みすると、ロシアのプーチン氏と共にアメリカ大統領選挙でのトランプ勝利に手を貸し、「そのことはよく分かっているだろうな」と、くぎを刺したのだ。

 この脅しが効き、11月7日のプーチン氏との電話会談につながったと見ることができる。「次期政権で起用しない」とはしごを外されたヘイリー氏とポンペオ氏はプーチン氏に強い警戒感を持っており、ロシア軍のウクライナ軍事侵略を強く批判してきた。それだけに、この唐突であり得ない「反プーチン共和党トップ2人の同時外し」の裏に、プーチン氏の意向が反映されていたのでは? と考えるのは違和感のない話なのである。