YouTuberはネット時代のシャーマンか
韓国でシャーマンが政治と接点を持った例は、過去にもあった。最近では、朴槿恵(パク・クネ)大統領と親密な関係があった実業家の崔順実(チェ・スンシル)氏がシャーマンと深い関係にあった。のちに朴大統領弾劾の理由とされた崔順実ゲート事件では、崔氏が一般人の身分で政治に関わったのが問題とされたが、それ以上にシャーマンの考えが崔氏を通して朴大統領の政策に影響を与えたのではないかと激しく批判された。
そして今回の戒厳令騒動では、尹大統領がYouTuberに影響を受けたのではないかと指摘されている。そもそも尹大統領には以前から、映画が指摘するように金夫人を介するかたちでシャーマンの影響が及んでいることを懸念する声もあった。そうした外部の怪しい存在との関係が、今回はYouTuberの影響という格好で顕在化したとも言えるかもしれない。
ここで指摘しておかなければならないのは、ネット社会におけるYouTuberは、韓国の伝統的シャーマンとその手法がよく似ているという点だ。
韓国のシャーマンは日本人がイメージするような、部屋にこもって儀式や祈祷を行う祈祷師とは少し違う。場合によるが、小さな敷地に多くの地元の人たちを集めて、世の中で起きていることや、異界からのメッセージなどを伝える役割をはたしていると信じられている。刃物の上に乗るといった“神がかった”刺激的な曲芸を披露して聴衆を集めるケースもある。
一方でYouTuberは、刺激の強い情報を断定的に発信するなどして多くのフォロワーを獲得し、社会に影響力を及ぼす。シャーマンもYouTuberも、真偽不明の情報を扇動的に発信するという意味では、共通項がある。いわばYouTuberは、ネット時代のシャーマン的存在なのだ(そもそも巫女はギリシア語でメデイアであり、メディアの語源になっている)。
ちなみに、シャーマンは90年代ごろまでは韓国社会にかなり根を張っていた。韓国語では巫堂との漢字表記があり、ムーダンと読む。今でこそ少なくはなったものの、私の家の近くにも彼ら・彼女らが住む「ムーダン(巫女)の家」がそこかしこにある。今でもシャーマンを信じている人は少なからずいるということだ。
シャーマンがそれなりに存在感をもつ理由としてはいくつか考えられる。その一つとしてここで挙げておきたいのは、韓国は「耳の文化」だということである。つまり、耳から入る聴覚情報に強い関心を抱く社会で、それゆえにシャーマンやYouTuberのように強い言葉を乗せた「声」が与える影響力が極めて大きい。