アサド政権崩壊にほくそ笑むトルコのエルドアン大統領

 ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争の長期化でロシア、イラン、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの支援が途切れ、政府軍の士気と決意の低下に拍車をかけた。反政府軍による恩赦と自治の約束がアサドから体制側のアラウィ派を離反させた。

 HTSは2017年、アルヌスラ戦線(ANF)と他の複数集団が合流して結成された。シリアにおけるアルカイダ関連組織として同国北西部の一部を掌握、アサド政権を倒してイスラム教スンニ派「イスラム国」を建設することを目指していた。結成以来、数人の米国民を人質にとっている。

 トルコはクルド人民兵主体のシリア民主軍を牽制するためHTSと妥協した。ブルッキングス研究所のケマル・キリシュチ上級研究員は「トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領はアサド政権崩壊とHTS率いる反政府軍がダマスカスを支配したことを喜んでいる」という。

トルコ・イスタンブールで、シリア反政府勢力がアサド大統領を追放したことを喜ぶトルコ在住のシリア人たち(写真:Tolga Uluturk/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
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 ピーク時に370万人に達したシリア難民が大量に帰国する見通しが出てきたからだ。トルコ大統領選では悪化する経済と難民問題が争点化した。アサド政権崩壊はシリア難民の帰国を促し、エルドアン氏には追い風になる。しかしシリア和平と復興が実現しなければ画餅に帰す。