(3)第2回米朝首脳会談(ハノイ)

 2019年1月の金正恩委員長による「新年の辞」演説では、シンガポール共同声明にある「完全な非核化」への意志が表明され、また、「これ以上核兵器を製造も実験もせず、使用も拡散もしない」とも言及された。

 北朝鮮は、金英哲副委員長を訪米させ(1月17~19日)、米国との実務協議によりトランプ大統領との直接交渉において制裁解除等の見返りを得ようとする動きを見せていた。

 他方、米国側は、スティーブ・ビーガン国務省北朝鮮担当特別代表が述べていたように、非核化が実現するのなら制裁が解除されるとして、約束が同時並行で進むことを理想とした。

 2019年2月27日、28日の両日にベトナム・ハノイで第2回米朝首脳会談が開催されたが、成果を得ることなく、会談が中断されて両首脳が帰国する形で終了した。

 トランプ大統領は終了後の記者会見において、北朝鮮が部分的な非核化の見返りとして制裁の完全な解除を求めたが、米国がこれを受け入れなかったことを明らかにした。

 米国が望んでいたのは、寧辺の核施設廃棄プラスアルファの非核化措置であり、トランプ大統領は米国が発見した核施設が存在することを明らかにした。

 この会談でトランプ大統領が金正恩委員長に手渡した文書について、ロイター紙(2019年3月30日)は、同文書により米国は、

①核計画の包括的な申告と米国を含む国際査察団の完全なアクセス、

②すべての核関連活動や新規の関連施設建設の停止、

③すべての核施設の廃棄、

④核開発に携わる科学者・技術者の商業部門への異動を要求したと報じている。

(4)第3回米朝首脳会議(板門店)

 2019年6月30日には、板門店において3回目の米朝首脳会談が実現し、トランプ大統領は現職米大統領として初めて境界線を越えて北朝鮮に入境したが、非核化の議論は進まなかった。

 トランプ大統領は記者会見で、5月に発射された北朝鮮のミサイルについて問われ、これを「小さなミサイルの実験」とし、「我々が議論しているのは長距離弾道ミサイルである」と答えた。

 首脳会談に続き、数週間以内に米朝間のプロセスが開始される予定であったが、実際に開始されたのは2019年10月5日のストックホルムにおける実務者協議であった。

 ビーガン国務省北朝鮮担当特別代表と会談した金明吉(キム・ミョンギル)巡回大使は「米側が手ぶらで現れた」と記者会見で主張したが、逆に米国側は「創造的なアイデアを持って、北朝鮮側と良い議論を行った」とする声明を発するなど両者の隔たりは大きかった。