4.米国による北朝鮮の非核化シナリオ
~周辺国の核・弾道ミサイルの脅威に対する日本の対応~
(1)米国による北朝鮮の非核化シナリオ
米国による北朝鮮の非核化シナリオを大きく分けると「軍事行動による強制武装解除」「外交交渉による核兵器の廃絶」および「北朝鮮の核兵器保有の容認」である。
▲「軍事行動による強制武装解除」については、北朝鮮の反撃により在韓米軍だけでなく日本・韓国も相当な被害を受ける可能性がある。
従って、日本・韓国は軍事オプションに強く反対するので、米国は軍事オプションを採用することが難しいであろう。
既述したが、第1次核危機(1993~1994)の時に、米国は北朝鮮に対する軍事行動における被害の大きさに驚き武力行使を中止した。
しかし、北朝鮮の核・ミサイル能力は第1次核危機の時に比べて格段に向上している。
今や北朝鮮はイスラエルに次ぐ世界第9位の核弾頭保有国(2024年1月時点で50個:SIPRI YEARBOOK 2024)であり、ICBMについては、米・ロ・中に次ぐ4番目の保有国である。
また、国際軍事情報会社IHSジェーンによると北朝鮮は700~1000発の弾道ミサイルを保有していると推定されている。
従って、北朝鮮による反撃は、地域の同盟国(日本・韓国)へ甚大な被害をもたらすことを考えれば、日本・韓国は米国の北朝鮮への軍事攻撃に強く反対するであろう。
米国第一主義を標榜し、武力行使も躊躇しない強い大統領を目指すトランプ大統領であれば、同盟国の反対を押し切り、武力攻撃を選択する可能性も排除できない。
▲「外交交渉による核兵器の廃絶」は、既述したようにカダフィ政権の悲惨な末期を知っている金正恩氏は絶対に核兵器を絶対手放さないことから実現は極めて困難である。
北朝鮮の最優先は体制の維持、すなわち「金王朝」の維持である。
これまで、北朝鮮はどんなに経済が疲弊しても盤⽯な体制を維持してきた。経済制裁などによる深刻な経済状況から来る国民の動揺は徹底した監視制度により管理されるであろう。
といっても、「軍事行動による強制武装解除」や「北朝鮮の核兵器保有の容認」も地域の安全保障に与えるインパクトが大きく、簡単に採用できるオプションではない。
そこで、「外交交渉による核兵器の廃絶」を目指し、北朝鮮の主張する「段階的非核化」と米国の主張する「完全で検証可能かつ不可逆な非核化」で対立しながら、忍耐強く、終わりのない外交交渉を続ける可能性も排除できない。
▲「北朝鮮の核兵器保有の容認」は、いまだ正式な米国の政策となっていない。米国の政策は、CVID(完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄)である。
ただし、米国は「ICBM以外の核兵器の保有を容認」する可能性がある。 米本土全体を射程に収めるICBMだけを破棄すれば、米国に対する弾道ミサイルの脅威はなくなる。
米国第一主義のトランプ大統領であれば、取り得る選択肢である。
米国がこのような選択をした場合には、日本本土は、射程1000~1300キロのノドンミサイルの攻撃範囲に収まる。
そして、日本はノドンを自力で相殺する手段を持っていない。
これと同じような事例が冷戦時代にあった。次に簡単に紹介する。
米ソINF(中距離核戦力)交渉当初の暫定合意では、英国、西独など西側5か国に配備されていた米軍の「パーシングII」および「GLCM」と、ソ連および東欧に配備されていた旧ソ連軍の「SS20」などの相互撤去のみに言及し、ソ連が極東に配備していた170基ものSS20は“積み残し”となるはずだった。
ところが、当時のロナルド・レーガン大統領とは「ロン・ヤス」と互いにファースト・ネームで呼び合う親密な関係にあった中曽根首相(当時)が粘り強く何度も大統領に働き続けた結果、その後の米ソ首脳会談、米ソ外相会談などを経て、1987年12月、最終的に極東配備の中距離核も破棄されることになった。
さて、近い将来、米国が「ICBM以外の核兵器保有の容認」をカードに、北朝鮮の核問題を解決しようとしたとき、日本の総理大臣は、米国の大統領を説得することができるであろうか。