2.第1次トランプ政権の米朝非核化交渉
本項は、日本国際問題研究所小此木政夫氏著「『最大限の圧力』政策と『先南後米』政策」(2018年)を参考にしている。
(1)北朝鮮の瀬戸際政策
瀬戸際政策とは、外交交渉で自国が相手国から譲歩を引き出そうとする対外政策であり、計画的に軍事的緊張を高める行動(例えば、ICBM=大陸間弾道ミサイルの発射、核実験の実施など)をとることによって行われる。
オバマ政権の最後の1年間に続いて、トランプ政権の最初の1年間に、北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの実験を集中した。
北朝鮮の弾道ミサイル発射は、中でも2016年以降の発射回数は著しく、2016年に23回、2017年に17回となっている。
2018年は米国におけるトランプ政権の誕生に伴う米朝接近の過程で発射回数がゼロであったが、2019年2月の米朝ハノイ会談で両国が物別れに終わると、北朝鮮は再び同年5月以降、米国を過度に刺激しない範囲で、主に短距離弾道ミサイル(SRBM)の発射を繰り返すようになった。
トランンプ大統領就任(2017年1月20日)後1年の主要な北朝鮮による挑発事例は次の通りである。
①2017年2月12日の核弾頭搭載可能な新型中長距離弾道ミサイル「北極星2号」を発射した。
②2017年8月8日に朝鮮人民軍戦略軍代弁人が声明を発表し、「中長距離戦略弾道ミサイル『火星12』型でグアム島周辺に対する包囲射撃を断行するための作戦方案を慎重に検討している」ことを明らかにした。
この挑発に対するトランプ大統領の反応は次項で述べる。
③2017年9月3日に第6回核実験を実施した。北朝鮮政府は「ICBMに搭載可能な水爆実験に成功」と発表した。
④2017年11月29日に平壌郊外から2段式 ICBM「火星15」が発射された。
高度4475キロまで到達し、53分間で950キロ飛行し、米東海岸に到達可能と推定された。
11月29日に発出された北朝鮮政府声明は、「超大型重量級核弾頭の装着可能な」、「完成段階に到達した最も威力ある ICBM」と表現し、金正恩委員長は「国家核武力完成の歴史的大業が実現した」と宣言した。
金正恩氏が「国家核武力の完成」を宣言したことの意味は小さくない。
核武力建設が完成したのであれば、核武力建設と経済建設の「並進」路線が維持される必要もなくなり、挑発路線から対話路線への転換が開始されるかもしれなかったからである。