「SNS選挙」で用いられているテクニック
こうした新しい動画時代ならではの文法とその活用は政治の世界にも確実に進んでいる。報道では「SNS選挙」などと言われているが、実際には複数の手法が並行して用いられ、試行錯誤が重ねられている。
少し例示するだけでも、「盛り上がりの演出」であり、「新しい意見収集」であり、「新しいボランティアの組織化」であり、「新しい無党派層の動員」であり、多くに関係するのが「他者の収益化」の活用である。
デジタルとソーシャル、動画が当たり前になった時代には映像での映り方や構図が重要になってくる。例えば「盛り上がり」は画角の問題だ。
会場に数人しかいないとしても、スマホなどで寄って撮影すれば盛り上がり感を演出できる。ネットが盛り上がっていると、現地に足を運ぶ人も現れる。
現地が盛り上がれば、ネットも盛り上がりがちである。この正のフィードバックに入るまで尺を伸ばし続けることもできる。
SNSや動画は「意見」を集めることに長けている。東京都知事選に登場した安野貴博氏が好例だが、ポジティブに活用すれば「ブロード・リスニング」になるし、そうでなくともある規模の人数が集い、クラスタの「色」がなんとなく確立されてくるまで配信を続ければよいのだ。
そのとき「他者の収益化」を設計することが重要になってくる。自分と同等かそれ以上に他者が再生回数を伸ばし、コンバージョンを増やせるようにする。
平たくいえば「ネットで稼げる」舞台とキャスト、シナリオを整えれば、あとは勝手にそれぞれが拡散、編集、切り抜くなどして周知していってくれる。「儲けさせてくれる人(政治家)」には忠誠心も湧いてくるというものだ。
政治的信念がある人たちはある意味、石頭で厄介だ。他方で、新興勢力からすれば無党派層の「支持」を取り付ければ量的にはさしあたりそれで十分だ。そう考えれば、極端な主張の理由も理解できる。
幸か不幸か、日本の有権者のボリュームゾーンは半数近く、世代によっては半数以上が無党派層であり、既存政党不信も近年強まっている。
既存政党は主張や政策で支持を拡大しているが苦戦している。主張は時代遅れになることもあるし、政策は整合性や細部の詰め、また少し相容れないと苦言が出てきたり、古い支持層と新しい支持層の調和が問題になったりする。
新興勢力は違う。別に無理に政策の話をしなくてもよいのだ。無党派層を中心に動機づけ、投票所に足を運ばせ、自分たちの名前を書かせることこそを重要視すればそれでよいかのようである。
選挙には人手が必要だが、しかも無償か法で定められた範囲の比較的低額な有償でなければならないから、ボランティアが重要になってくる。
政治的信念や団体的動員が伝統的な動員原理だが、「面白くて」「盛り上がっていて」「儲かる」ならどうか? しかも「ネットで出来ること」の範囲と重要性は増すばかり。
ということは、地理的に離れていてもボランティアとしてできることがある。動画の編集や切り抜き、拡散などはその最たる例だ。それらが新しい組織化の原理になっている。