反論自体が陰謀論者の思うつぼ?
オンライン上の偽情報にどう対抗するかというテーマに関連して、アトランティック誌の記者であるアリ・ブレランドが興味深い指摘を行っている。
いま米大統領選の結果などを受けて、ツイッターからブルースカイ(ツイッターの代替となる類似サービスとして注目されているもののひとつ)へのユーザーの転出、特にリベラルや左派の大移動が始まっている。それは右派にとって喜ばしい状況かと思いきや、実際には彼らにとっても望ましくないのだという。
それはなぜか。まずは単純な理由として、右派の勢力をこれ以上拡大できなくなってしまうためだ。ツイッターが右派ばかりになってしまっては、彼らにとって聞き心地の良い投稿になるというメリットはあるものの、左派がいなければ彼らを説得して寝返らせることもできないわけである。
そして、もうひとつの理由は「左派との継続的な対立」という構図がなくなってしまうことだ。
偽情報を流す人々にとっては、実は反論する人物の存在は望ましい。彼らが期待通りの反論をしてくれることで、「ほら、痛いところを突っ込まれてムキになって反論してきたでしょ?」というポーズを取り、自説の説得力を高めることができるわけである。
もしツイッターから左派が消えてしまえば、こうした「望ましい対立構造」も消えてしまうことになる。
この指摘は、反論自体の意味を問い直すものだろう。もちろんネット上では、「沈黙は肯定」と捉える文化も見られる。しかし事細かに反論することも、反論する相手の説得力を増す可能性があるのだ。その意味で、DebunkBotのような対応を取ることは、陰謀論の強化につながってしまう恐れは十分にあると言わざるを得ない。
SNSを含むネット上の言論空間は、いまや人間だけでなくボットや生成AIも入り乱れて、情報と偽情報を戦わせる世界となってしまった。それが現実世界において分断を招いたり、社会の根底を揺るがせたりするのを防ぐにはどうすべきか、過去の常識を捨てて考察を進めることが求められているのだろう。
【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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