米国で進む社会分断は先進国共通、日本も「構え」が必要
外交・安全保障面も同様で、欧州、中東での戦争をどう決着させようとするかが注目される。将来、どのような帰結をもたらすかという点を横に置いておけば、ごく短期的には戦争がなくなるのは、国境を超える経済活動にはプラスになる。
そうした目玉政策がまず優先されるだろうが、日本にもトランプ2の目は確実に向いてくる。米国国民が、自国優先の国家運営を圧倒的多数で望んだ以上、少なくとも次の4年、米国はそちらに向かう。
安全保障上、自国あるいはその周辺を防衛したいのであれば、より自分でそれをやれと米国が言ってくることは避けられないのではないか。
来年から米国で発足する政権は「トランプ2.0」とも呼ばれる。しかし、ドナルド・ジョン・トランプ氏の政権として、2.1や2.2が出てくるということはあるだろうか。
トランプ3は今のところ制度上あり得ない。2年後の2026年の中間選挙を過ぎれば、過去にならえば現職大統領はレイムダック化していく。
しかし、グローバル経済の変化の中で、米国社会自身の内部の矛盾が大きくなり、それがトランプ2の誕生につながったところも大きい。したがって、いわゆるトランピズム自体は2028年の次の大統領選挙以降も続いていく可能性も否定できない。
ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス新副大統領の登場などは、そうした可能性を示唆する。今回、大きな敗北を喫した民主党にとっては、そのような民意に対し、どう納得感のある旗印を立て、それを具現化する人材を前面に押し出すかが課題になるのだろう。
米国のような社会分断は、程度の差こそあれ、日本も含めた先進国に共通の問題である。その点は、日本も米国をみて構えるべきだ。
インフレ期待が2%にアンカーできていないから、その目標を超えるインフレが3年も続いても我慢すべきだという考え方は、多くの国民の理解を得られるだろうか。
中央銀行が国民に寄り添っているという実感がなければ、分断が進む社会はより鋭く政権与党を批判するようになるのではないだろうか。
神津 多可思(こうづ・たかし)公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事。1980年東京大学経済学部卒、同年日本銀行入行。金融調節課長、国会渉外課長、経済調査課長、政策委員会室審議役、金融機構局審議役等を経て、2010年リコー経済社会研究所主席研究員。リコー経済社会研究所所長を経て、21年より現職。主な著書に『「デフレ論」の誤謬 なぜマイルドなデフレから脱却できなかったのか』『日本経済 成長志向の誤謬』(いずれも日本経済新聞出版)がある。埼玉大学博士(経済学)。