米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて、株式市場では「トランプラリー」が起きている。だが、株式市場に短期的に追い風となる政策も、中長期で見れば逆風に転じる可能性が高く、トランプラリーは長続きしない。NISAで人気の「S&P500」や「オルカン」の投資信託を通じたアメリカ一辺倒の資産運用リスクが、トランプ返り咲きで高まっている。では、どうすればいいか?
(中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長)
トランプ氏が米大統領に返り咲くことになりました。これほどの圧勝となるとは正直、意外でした。トランプ氏はエリート支配層への戦いを訴えて支持を集めたことを、私たちは重く受け止めるべきでしょう。それほど、格差がもたらしている分断の闇が深いということです。
トランプ氏の勝利で、株式マーケットでは「トランプラリー」が起きています。日本時間6日、開票中にトランプ氏優勢が明らかになると日経平均株価は上昇。トランプ氏勝利が確実になった現地時間6日、米国の株式市場ではダウ工業株30種平均が前日と比べて1500ドル超も急騰し、8日にはS&P500種株価指数が一時6000を上回り、ダウも最高値を更新しました。トランプ氏が掲げる、法人税引き下げや財政拡大、金融緩和的な姿勢が株価を押し上げるとみられているからです。
しかし、トランプラリーは長続きせず、早晩はげ落ちるでしょう。減税や財政拡大は景気には追い風で、短期的には株高傾向になります。しかし、トランプ氏が掲げる政策は中長期的にはインフレを再燃させかねないものが多く、景気には逆風となりかねません。
輸入品に一律で10%の関税をかけると主張しており、20%にするとも発言しています。中国に対しては、60%以上の関税をかけるとしており、これにより輸入品は高騰しインフレが加速しかねません。
さらに、大規模な不法移民の強制送還も公約に掲げています。これが実施されると労働力不足が深刻となり、人手確保のために賃金は上昇。インフレ圧力をさらに強めます。
米連邦準備理事会(FRB)は7日、米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の追加利下げを決めました。インフレ率の低下傾向が続いていることを踏まえた2会合連続の利下げとなりましたが、私はまだインフレの芽が完全に摘み取られているわけではないと考えています。こうした状況の中、トランプ政権はインフレ誘発的な政策を実施するのが確実視されています。すでに、インフレ再燃を懸念して米国の長期金利は上昇しています。
インフレ再燃に加えて、トランプ氏の予測不能な言動も相まって、今後の米国経済には不透明感が高まっています。米中の対立は貿易だけではなく、台湾有事の懸念も高まるでしょう。イスラエル寄りの姿勢は中東リスクをさらに高めかねません。イランとイスラエルの間で戦争が勃発するような事態になれば、原油価格は急騰し、世界中が混乱に陥ります。
ようするに、トランプラリーに期待するのは、あらゆる面であまりにも能天気と言わざるを得ません。では、個人投資家はどのような考えで「トランプ2.0」時代に資産運用を続けていけばいいのでしょうか。