
(中野晴啓:なかのアセットマネジメント社長)
中国のスタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)が開発した生成AIモデルがマーケットを揺さぶっています。1月27日、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)の株価は17%安と急落し、他の米ハイテク株も軒並み下落しました。
生成AIといえば米オープンAIの「ChatGPT」がフロントランナーとされてきました。それに匹敵するとみられる性能を、ディープシークが中国への輸出が制限されている最先端のエヌビディア製半導体を使わずに実現したことに衝撃が走っています。
高価な最先端半導体を大量に使わずに、生成AIの開発コストを劇的に下げられる可能性が出てきたのです。世界をリードしていた米国のAIをしのぐかもしれない技術が突然、中国から登場したわけで、エヌビディアを軸とした米ハイテク株への熱狂に冷水を浴びせられました。
「ディープシーク・ショック」といった言葉がマーケットを駆け巡り、「ディープシークはブラックスワンなのか」といった声も聞かれます。ブラックスワンとは、「黒い白鳥」の意味で、市場関係者が想定していなかった事態を表す言葉です。
確かに、27日のエヌビディア株の急落ぶりをみると、ブラックスワンとも思えてきます。もっとも、翌28日にはエヌビディア株は反発し9%高となったことから、ディープシークを黒までいかない「グレースワン」と見立てる声も出てきています。
でも、そもそもマーケットでは市場参加者の多くにとって予期せぬ出来事が起きるものです。相場の暴落は得てして、そうした想定外の事態が引き金となります。
ディープシークの存在も、一部の投資家やエンジニアたちには知られていたのでしょうが、エヌビディアをはじめとする生成AIブームに乗ったハイテク株の上昇に浮かれていた人たちにとっては目に入らなかったのかもしれません。いや、気づいていても、あえて目を逸せていた人もいるでしょう。それが、相場のユーフォリア(過度な幸福感、陶酔感)というものです。
カリスマ投資家ジョン・テンプルトンはかつて、こんな言葉を残しています。
「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」
はたして、エヌビディアを筆頭にハイテク株が牽引してきた右肩上がりの米国の株式相場は、ディープシーク・ショックを契機に大きな調整局面に入るのでしょうか。ディープシークの実力はもう少し見定める必要があるでしょうが、私はそもそも、ディープシーク・ショックなどなくてもハイテク株を中心とした強気相場は早晩、終わるとみています。
どういうことか、ご説明しましょう。