公益の観点から考えるマイナ保険証のメリット
医療の記録も同様だろう。過去の医療記録が現在の診断に活かされるだけでなく、子どもの頃の罹患や予防接種が成人してから影響を及ぼす可能性もある。健康診断の記録などを蓄積し、個人の健康情報を統合管理するPHR(Personal Health Record)へとつなげていくためにも、長期間の正確なデータ管理が必要となる。
デジタル庁ではマイナ保険証のメリットとして次の3点を挙げている。
1. 医師や薬剤師から、ご自身の情報に基づいた総合的な診断や、重複する投薬を回避した適切な処方を受けることができます。
2. 高額な医療費を一時的に自己負担したり、事前に役所で書類申請手続きをしたりする必要がなくなります。
3. 引越しや、就職・転職の後もそのまま健康保険証として使えます。更新が不要で、新しい保険証の発行を待たずに手元のマイナンバーカードをそのまま使えます。
これらのメリットはいずれも国民にとって重要なメリットであるが、公益性の観点から少し補足しておきたい。
保険情報の誤りや不正使用は全国で年間600万件にも上り、そのための事務経費は1000億円を超えるという推定がある。保険証の切り替え時に失効した保険証をそのまま使ってしまうケースだけでなく、紙の保険証には写真がないためになりすましや使い回しなどが発生しているという。
年間40兆円を超えて増え続ける医療費削減のため、保険証発行経費の削減を含めこのような無駄を無くしていくことは意味がある。それだけでなく、なりすましや使い回しが起きるとデータの信頼性が大きく毀損され、医療DXにも悪い影響を及ぼすことになる。
前述の骨太の方針では、「医療DXの推進に関する工程表に基づき、全国医療情報プラットフォームを構築するほか、電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHRの整備・普及を強力に進める」と記載されている。それはマイナ保険証によるデータの正確性確保が前提だ。
医療のDX化・高度化は、今まで以上に国民の健康や生命を守ることに役立つだろう。
健康寿命と健康達成度が世界一であるだけでなく、皆保険制度やフリーアクセスが整備されている日本の医療制度は世界一であると高く評価されている。マイナンバー制度やマイナ保険証は、この優れた医療制度の持続可能性を担保するという公益性を有している。
もう少し大局的な観点から見てみよう。