マイナ保険証で削減できる事務作業

 我が国の現状を鑑みるに、厚労省の資料では社会保障給付費が24年度(予算ベース)で137兆円を超える規模になっている。GDP比では22.4%であり、90年度の10.5%と比較すると、30数年で2倍以上の膨張だ。さらに、団塊の世代(1947~49年生まれ)が後期高齢者へ突入し、医療費のさらなる増大が予想される。

 社会保障給付費における国および地方の公費負担は現状約4割であり、医療費だけを見ても同様の割合だ。国家財政に余裕があるなら懸念はないが、財務省によれば国の債務残高はGDPの257.2%であり、全世界178カ国のなかでは最悪の数字だ。

 これをもって我が国は破綻するなどと煽るのは早計だが、諸外国からの信用を失うことのないよう、政府がこの状況をコントロール可能だという環境整備が急務だ。

 マイナンバー制度やマイナ保険証は、社会保障給付費増大を見込みながら国家運営の持続可能性を確保する手段となる。

 国民の生命に関わる医療サービスは簡単に削減できないが、その事務処理に関しては削減の余地がある。日本は皆保険制度であり、誰でもどこかの保険に加入している。現在の保険証では前述した差し戻しが起きており、マイナンバーカードで本人確認を行えばこのような無駄な事務は省ける。

 また、保険料の徴収などを行う医療保険者は3000以上もあるが、各々が事務を行う必要性についても疑問だ。

 かつては各保険者が施策に工夫を凝らし保険料を下げる努力も意味があったが、現状では高齢者への拠出金が増えてその意味も薄れている。マイナ保険証が普及することで、将来的に医療保険者の一本化という事務の合理化にもつながる。

 マイナ保険証の紐付け問題を発端として、保険証廃止の延期を求める世論が起きた。しかし、政府は総点検本部を設置して点検を行い、保険証廃止期限は12月とし、マイナンバーカードを持たない人には「資格確認書」を発行して対応するとした。現在の医療制度を守るためにも猶予は許されないからだ。

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【榎並 利博(えなみ・としひろ)】
 1981年に富⼠通株式会社に⼊社。⾃治体の現場で、住⺠基本台帳をはじめあらゆるシステム開発に携わる。1995年に富⼠通総研へ出向し、政府・⾃治体分野のコンサルティング活動に従事。2010年に富⼠通総研・ 経済研究所へ異動し、電⼦政府・電⼦⾃治体、マイナンバー、地域活性化をテーマに研究活動を行う。2022年4⽉に行政システム株式会社 ⾏政システム総研 顧問および蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員に就任。
 この間、法政⼤学・中央⼤学・新潟⼤学の各⾮常勤講師、早稲⽥⼤学公共政策研究所の客員研究員、社会情報⼤学院⼤学の教授を兼務。
「デジタル⼿続法で変わる企業実務」(⽇本法令)、「地域イノベーション成功の本質」(第⼀法規)、「共通番号-国⺠ID-のすべて」(東洋 経済新報社)など、マイナンバー、電⼦政府・電⼦⾃治体・地域活性化に関する著書・論⽂や講演等多数。

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