ハリス氏に投票したくてもできないトランプ支持者の妻たち

 ハリス副大統領率いる民主党陣営は、一貫して中絶の権利を擁護する立場だ。これに対しトランプ氏は大統領在任中、連邦最高裁判所の判事3人を保守派から指名し、その結果、中絶の権利を認めた判決が2022年に覆った。これにより、米国の22州で中絶が禁じられたり、制限されたりした。

ハリス氏は一貫して女性の人工妊娠中絶の権利を訴えてきた(写真:AP/アフロ)

 この年、当時28歳だったジョージア州在住の女性が、妊娠6週間後の中絶が違法となった同州で適切な医療処置をすぐに受けることができず、敗血症などで死亡した。身体や生命に直接関わる中絶の権利について、どちらの陣営支持であったとしても身近な問題として捉える女性が多いことは、想像に難くない。

 だが、女性としてハリス氏に票を投じたくとも、保守派・共和党の支持者である夫に従わざるを得ないと感じる女性の有権者は多いのだという。

 先の動画は、こうした共和党支持者の妻(もしくは家族)である女性たちに、「あなたの一票(価値観)はあなたのプライバシー」と呼びかけるものだ。英ガーディアン紙によれば、選挙戦終盤のこの数日、女性票を渇望するハリス陣営は、夫のトランプ支持に密かに疑念を感じている女性たちへの働きかけを強めてきた*2

*2The women ‘cancelling out’ their Trump-loving partners’ votes: ‘No one will ever know’(The Guardian)

 この動画に対しては夫婦の絆を損ない、不信感を生むものだとして、保守派の有権者が猛反発しているとの報道もある。英デイリー・メール紙はSNS上で「女性に嘘をつかせ、夫を騙すことを薦めるキャンペーンなど信じられない」「女性をこれほど見下した態度には言葉を失う」などという投稿を掲載。この広告が女性蔑視だと不快感を表せた女性ユーザーの声も紹介した。

 他方、同紙は「こうした前時代的で家父長的なカップルは何百万人もいる」「私の両親がこういうカップルだった。それほど珍しいことではない」という擁護の声も伝えている*3

*3Outrage at Julia Roberts' Kamala ad that encourages women to hide votes from their husbands(Mail Online)

 英ガーディアン紙は10月31日のコラムで、一部の保守層の家庭が「独裁国家」であると書いた。同紙は激戦州の一つであるペンシルベニア州で選挙活動を行う男性に取材している。この男性がカップルを見かけて政策について話をしようとすると、逃げ出したり、男性がいないところでこっそり「私はハリス支持だが、彼には知らせていない」と告げたりする複数の女性の存在を何度も目撃したのだという。