《大統領選後を予測する》の2回目は「もしハリス氏が勝利したら」です。民主党のカマラ・ハリス候補は副大統領としてバイデン政権を支えてきました。その一方、選挙戦ではバイデン政権の方向性とは異なる独自政策も打ち出し、有権者にアピールしています。「ハリス大統領」が実現した場合、これまでとは違った米国の姿を見ることになるのでしょうか。米国初の女性大統領は、どう動くのでしょうか。その見通しをやさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
◎《大統領選後を予測する》もしトランプ氏が勝利したら…米国の利益を最大化、孤立主義で世界秩序は戦前に回帰?
【目次】
・米国初の女性大統領になるか?中絶は容認へ
・マイノリティーに配慮、「法の支配」厳格に
・金持ちには増税、法人税率引き上げなど企業に厳しく
・国際強調重視、ウクライナ支援は継続
米国初の女性大統領になるか?中絶は容認へ
ハリス氏の勝利――。それは米国初の女性大統領の誕生を意味します。2016年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン氏が共和党のトランプ氏に敗れてから8年。ハリス氏が当選すれば、「女性は大統領になれない」というアメリカ社会の目に見えない「ガラスの天井」を突き破ることになるのです。
ハリス氏自身は女性であることをあまり強調しません。それでも、選挙戦では妊娠中絶の権利を保障することを強調してきました。「女性は自らの身体に関する決定を政府に妨害されずに行えるようにすべきだ」という主張です。
米国では妊娠した人の4割以上が「意図しない妊娠」だったとされ、全米の妊娠中絶は2023年に100万件を超えました。「キャリアアップの妨げになる」「シングルマザーになりたくない」「子供を育てる経済的余裕がない」など理由はさまざまです。
米国社会はキリスト教の影響を強く受けており、右派を中心に中絶反対を唱える人は少なくありません。各州では人工中絶を違法とする州法も制定されていました。
しかし、連邦最高裁は1973年の「ロー対ウェイド事件」判決で、中絶は女性個人の権利であるとし、中絶禁止の州法を違憲としたのです。ところが、連邦最高裁は2022年6月、この判決を覆しました。その結果、半数以上の州が新たに中絶の規制強化を法制化しています。
ハリス氏は大統領に当選すればどの州でも中絶を可能にすると訴えています。胎児が子宮外で育つことができる妊娠22〜24週より前の段階に限定して適用する考えです。