国際強調重視、ウクライナ支援は継続
トランプ氏の「米国第一主義」と異なり、ハリス氏はアメリカが積極的に国際的責任を果たすべきだとの立場を取っています。
外交分野でトランプ氏との違いが見えやすいのは、ウクライナをめぐる立場でしょう。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の数日前、ハリス氏はドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議に米国副大統領として出席し、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しました。ハリス氏はロシアの侵攻が迫っていることをゼレンスキー氏に伝え、警戒を促したのです。ゼレンスキー氏とはその後も会談を重ねています。
ロシア寄りの姿勢を取るトランプ氏に対して、ハリス氏は今年9月のテレビ討論会で「あなたが大統領だったら、今ごろロシアのプーチン大統領は(ウクライナの首都の)キエフに鎮座していたでしょうね」と皮肉をぶつけました。ウクライナへの軍事支援と、ロシアへの経済制裁は継続する方針です。
こうした姿勢は「主権や領土一体性の不可侵といった国際的規範を守ることが米国にとって大きな意義がある」という考えに基づいています。北大西洋条約機構(NATO)の枠組みを通じてロシアに対抗する姿勢を堅持し、フィンランドとスウェーデンの加入を歓迎しています。カネを払わないと守ってやらないと公言するトランプ氏とは、大きな開きがあると言っていいでしょう。
イスラエルとハマスの戦闘に関しては、イスラエルの自衛権を認めており、イスラエルを擁護する立場です。また、イスラエルへミサイル攻撃を行ったイランに対しては「米国にとって最大の脅威」と警戒を強めています。パレスチナの戦闘に関しては停戦を模索する動きも見せていますが、先行きは不透明な状況が続いています。
アジア外交はどうでしょうか。
ハリス氏は、中国の南シナ海進出を批判し、「台湾の自衛権を支持する」との考えを示しています。ただ、経済面では「デカップリング(分断)」ではなく「デリスキング(リスク低減)」の姿勢で、対話を途絶えさせない考えです。
日本に対してはアジア太平洋地域での役割を重視し、関係強化を図る方針です。日米韓や日米豪印4カ国による「QUAD」など多国間の枠組みを活用するバイデン大統領の手法を受け継ぐと見られます。ハリス氏は2022年に安倍晋三元首相の「国葬」で来日した際、半導体業界関係者と会合を持つなど、経済安全保障の分野でも日米連携を強化する構えです。
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西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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