稲盛さんが語った「リーダーに必要な条件」
このような高い人間性を持っていることを前提にして、リーダーにまず必要なことは、どうしても事業を成長させたいという情熱を持つことだと稲盛さんは言います。それは、稲盛さんの代表的な著書の一つのタイトルが『成功への情熱』(PHP研究所刊)であることからも明らかです。
稲盛さんの言う情熱とは、単に「こうなればいいな」という程度のものではありません。それは潜在意識の中にビルトインされるほど寝ても覚めても四六時中頭から離れない、また、どんなに厳しい状況になろうと決して変わらない強烈で持続した願望です。ちょっと環境が変わったからといって、すぐに諦めるような願望ではダメなのです。
稲盛さん自身がその重要性を改めて学んだのは、京セラ創業後に中村天風氏の『研心抄』という本の中で「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり、さらばひたむきにただ想え、気高く強く一筋に」という言葉に出合ったときだと話していました。
新しいことを成すには、どんな逆境にも負けない不屈不撓の精神、ひたすらで、崇高で、気高く強い思いが不可欠だというのです。
稲盛さんはJAL着任後の最初の会議で、この言葉を紹介しました。初めは言葉の意味をよく理解してもらえなかったのですが、徐々に浸透し、数カ月後には「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり、さらばひたむきにただ想え、気高く強く一筋に」と書かれたポスターが社内のいたるところに貼られ、社内報の表紙を飾るなど、再建の合言葉にもなりました。
私はある幹部の方が自分のパソコンの下に「不撓不屈」と書かれた手製のシールを貼っているのを見つけ、本気度を感じました。言葉には力があるのです。
稲盛さんは、ゼロから京セラを立ち上げ、NTTに立ち向かうために徒手空拳で第二電電(現KDDI)を創業し、嵐のような逆風の中でJALの再建を成功させました。そのような稲盛さんから見ると、現在の日本経済の低迷は歯がゆいものでした。
「経済状況も物理的環境もよくなったのに、なぜ低成長、低収益になるのか。何が変わったのか。変わったのは心ではないか」──稲盛さんはそう問いかけています。そして、「経営者に燃えるような情熱がないことが日本の産業界の衰退の原因だ」と語り、「経営者に情熱がないために、社員にもやる気が生まれてないのだ」と指摘していました。
その指摘は正鵠を射ていました。