稲盛氏は自己犠牲が求心力の源泉だと考えていた(写真:共同通信社)稲盛氏は自己犠牲が求心力の源泉だと考えていた(写真:共同通信社)

 京セラを創業し、JALを再建したことで「経営の神様」として今なおビジネスパーソンに多大な影響を与える故・稲盛和夫さん。約30年間にわたり最側近として稲盛さんの仕事を間近で見てきた大田嘉仁さんが、稲盛さんの言葉や教えを書き留めたノートは実に60冊にもなる。そんな大田さんが選りすぐった稲盛さんの言葉とは(第2話)。

*本記事は『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)の一部を抜粋・再編集したものです

周囲を明るくできるのがリーダー

 強烈な願望を持ち、社員の幸せのために全力を尽くす。そのような姿勢がなければ、社員の心を一つにまとめ、結果として事業を発展させることはできません。一方で、いくら努力していても、そこに悲壮感が漂っていては、社員はついてきてくれません。

 稲盛さんは「周囲を明るくできるのがリーダー」だと教えています。なぜなら、「リーダーが明るく振る舞えば、その集団は明るくなり、前向きに物事を考えられるようになる」からです。

 これは経営の鉄則です。どんな逆境に追い込まれたとしても、リーダーが弱音を吐いたり暗くなってはならないのです。

 稲盛さんは「特に逆境のときにこそ、リーダーは部下に希望を抱かせ、夢を持たせるようなことを話していくべきだ」と語り、経営環境が突然悪くなったとしても「ぼやく人、不平不満を言う人は、それだけで経営者として失格」と厳しく指摘しています。

「経営者に暗さがあってはダメだ。どんな逆境になろうと、無理にでも前向きな明るさが不可欠なんだ」と教えているのです。

 景気が低迷し始め、業績が悪くなったときには、社員も当然そのことは知っていて、不安を感じているはずです。そこでリーダーが「景気が落ち込んでいるから仕方ない」とぼやいたら、部下も「そうだ、自分たちのせいではない」と思ってしまうでしょう。

 一方で、「大丈夫だ」と話しても暗い表情をしていては、士気が上がるはずはありません。そんなときにこそ、「このくらいの苦境は必ず乗り越えられる」と無理にでも明るく振る舞い、部下を安心させることが必要なのです。