「尽くすから尽くされる」

 では、求心力はどうすれば得られのか? 稲盛さんは「リーダーは集団を助けるもの。人が喜ぶ姿を見て喜べる人間性が必要」だと教えています。自分のことはさておき、自分の組織や部下が一番気になり、そのためにはどんな自己犠牲も厭わないどころか、それが喜びになるというような人間性が必要になるというのです。

 そのことについて、稲盛さんは、「尽くすから尽くされる」という人間関係の基本にも言及しています。尽くされようと思うのなら、つまり求心力を得ようと思うのであれば、最初に部下に尽くすことが必要だというのです。

 これはギブ・アンド・テイクという人間関係の基本ですが、地位が高くなるとこの人間関係の基本を忘れて、部下が尽くしてくれるのが当たり前だと思い込んでしまうケースが間々あります。しかし、地位や権力だけでは、「いつまでもこの人についていきたい」というような求心力は決して生まれてこないのです。

 部下に「尽くす」ということは、部下のために自己犠牲を払うということです。稲盛さんは「リーダーは自己犠牲を強いられる。それに耐えられなければダメだ」と諭しています。

「俺はこんなに偉くなったのに、なぜ部下の面倒ばかり見なくてはならないのか」と思うのではなく、「部下を成長させるのがリーダーの仕事、部下の成長がリーダーの成長」と信じて部下の成長を願い、そのためには自己犠牲を喜んで払えるようにならないといけないのです。

 また、稲盛さんは「優しさや思いやりがないと求心力がなくなる」とも語っています。先ほど説明した優しさや気配りも当然リーダーには不可欠なのです。

「なぜ自分の求心力は高まらないのか」と疑問に思うのであれば、自分が部下にどういう態度で接しているのかを自問自答すべきだと稲盛さんは言います。「社員は赤の他人だから、俺がぞんざいに扱うと社員も俺にぞんざいになってくる。俺が丁寧に扱うと、社員も俺のことを丁寧に思ってくれる」と教えているのです。これは人間社会の真理でしょう。