写真提供:共同通信社

 デジタル技術やAIの台頭など、変化が激しく不確実性の高い時代において、今、多くの企業で「パーパス経営」が注目されている。こうした「同じ経営理念やパーパスを信じる人たちが共に行動する」という理想的な民間企業の姿は、見方によっては「宗教」にも通底する部分があると言えるのではないか。本連載では『宗教を学べば経営がわかる』(池上彰・入山章栄著/文春新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。世界の宗教事情に詳しいジャーナリスト・池上彰氏と、経営学者・入山章栄氏が、宗教の視点からビジネスや経営の在り方を考える。

 第4回は、禁欲的思想として知られるキリスト教プロテスタンティズムと、企業経営に共通する視点について考える。「働くのはお金のためではない」という社会奉仕の精神は、なぜ結果として企業を成功に導くのだろうか。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ不可能の連続を成し遂げられるのか?ソフトバンク・孫正義氏の「センスメイキング」とは
第2回 「今の日本にはイノベーションが足りない」、ホンダ、ソニー、アップルが行っていた「知の探索」はなぜ重要か?
第3回 スノーピークやユーグレナにはなぜ熱狂的ファンが集まるのか? いい意味で"宗教的な"企業が増えている理由
■第4回 松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫…「お金のためだけじゃない」経営は、なぜ長期的に企業を成長させるのか?(本稿)
■第5回 アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?(10月31日公開)

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「お金のためじゃない」から成功する

宗教を学べば経営がわかる』(文藝春秋)

入山 特にいまの世の中と通じると感じたのが、プロテスタントの感覚は「働くのは、お金のためじゃない」という点ですね。でも、逆説的ですが、お金のためではなく働くから、資本主義社会の中で成功するということです。

 そして、これは実はプロテスタントだけに当てはまる法則でもない気がするんです。というのも、たとえば日本でも成功している企業・経営者の多くが、お金のためだけではなく、そもそも根源では社会をよくするために活動しているようにみえるし、あるいは実際にそう言っているからです。

 たとえば、松下幸之助や本田宗一郎がそうでした。松下幸之助の水道哲学はその典型ですよね。本田宗一郎は「(生産者が)造って喜び、(販売会社が)売って喜び、(顧客が)買って喜ぶ」というモットーを1951年の社内報で発表しましたが、この理念が顧客のために革新的で安いバイクや車、飛行機などをつくる社風につながっています。

池上 京セラの稲盛和夫さんも同じだったかもしれません。

入山 はい。まあ、一方でもちろんお金を稼ぎたい気持ちもあるのかもしれないんですけれども、世の中の役に立つこと、社会的な大義が第一だと。利益が上がったら、未来の社会をよくするために投資する。そこで得た利益をまた未来のために投資する。

 第一章でもお話ししましたが、最近は「パーパス経営」という考え方が注目されています。企業はパーパス(目的・存在意義)がまず大切だ、と言うことですね。つまり、「お金のためだけじゃないんだ」と。たとえば気候変動への対処とか、世界の栄養問題を解決するとか、根底では社会的な目的の実現のためにその手段としてビジネスをすることが、企業経営の本質なんだという意見が広がり始めているんです。この考え方を、ウェーバーの言説と比較検討してみるのも面白そうです。

池上 「パーパス経営を実践したから、欧米の資本主義は発展した」という見方もできるかもしれませんね。

入山 そうですね。私も様々な企業を見る中で、「お金を稼ぐことだけを目的にしている会社は、結局、お金をたいして稼げない」という感覚を持っています。それ以外の社会目的が根底にあり、それをセンスメイク(腹落ち)しているからこそ、結局は長い目で見て成功してお金も手に入るわけです。

 それが昔だったらプロテスタントのように神に仕える意識、いまだったら社会に仕える意識を持っている経営者が、結果的にですがお金も手にすることになるんです。