写真提供:ZUMA Press/日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 デジタル技術やAIの台頭など、変化が激しく不確実性の高い時代において、今、多くの企業で「パーパス経営」が注目されている。こうした「同じ経営理念やパーパスを信じる人たちが共に行動する」という理想的な民間企業の姿は、見方によっては「宗教」にも通底する部分があると言えるのではないか。本連載では『宗教を学べば経営がわかる』(池上彰・入山章栄著/文春新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。世界の宗教事情に詳しいジャーナリスト・池上彰氏と、経営学者・入山章栄氏が、宗教の視点からビジネスや経営の在り方を考える。

 第3回は、「宗教化」する企業の事例を紹介。アウトドア用品メーカーのスノーピークやバイオテクノロジー企業のユーグレナなど、崇高なビジョン、理念を持った企業が特に若者の間でカリスマ的な人気を集めている現象について考察する。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ不可能の連続を成し遂げられるのか?ソフトバンク・孫正義氏の「センスメイキング」とは
第2回 「今の日本にはイノベーションが足りない」、ホンダ、ソニー、アップルが行っていた「知の探索」はなぜ重要か?
■第3回 スノーピークやユーグレナにはなぜ熱狂的ファンが集まるのか? いい意味で"宗教的な"企業が増えている理由(本稿)
■第4回 松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫…「お金のためだけじゃない」経営は、なぜ長期的に企業を成長させるのか?(10月24日公開)
■第5回 アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?(10月31日公開)

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「創造性は移動距離に比例する」

宗教を学べば経営がわかる』(文藝春秋)

入山 「ゴーゴーカレー」っていう金沢発祥のチェーンがありますよね。日本で二番目に大きいカレーチェーンで、レトルトカレーや学校給食にも進出し、ニューヨークなど海外でも店舗を展開しています。

 創業者の宮森宏和さんという方と私は親しいんです。彼の名言があって、私はこれが大好きなんですが、いわく「創造性は移動距離に比例する」。

「知の探索」とは要するに人間の認知の幅を広げることで、いちばん手っ取り早い手段は、自分自身を遠くに移動させることなんです。実際、私の知っている優れたビジネスリーダーたちは、本当にいろんな場所へ移動します。かくいう池上さんも、取材で世界を飛び回っていらっしゃると思います。これって大事なことですよね?

池上 そうですね。別の場所に移動することで得られる発想力は、間違いなくあります。

入山 宮森さんは、ニューヨークにいたかと思うと、インドにいたりする。一時期は、ゴーゴーカレーをインドに出店するということも考えたらしいんです。

 金沢がルーツのカレーがインドに出ていくという謎の展開なんですよ(笑)。で、「入山先生、僕、いま、インドで準備してるんです」なんて連絡が来る。「大丈夫か、この人」って思うときもあるんですけど。

池上 でも、その行動力や情熱って、迫力がありますよね。インドに出店するビジョンにしても、訳のわからない面もあるけれど、夢がある。それこそ周りの人たちを「腹落ち」させられるんじゃないですか。

入山 まさに、そうだと思います。

これからの企業は「宗教化」する

入山 日本企業の多くが「知の深化」に偏っているというお話をしましたが、そうなると目の前で短期的な利益が上がるだけで、イノベーションも起きないし、働いている人は息苦しいと思うんですね。

 社会が成熟する中で、若い人たちはお金以外の価値を求めている。終身雇用制という前提が崩れた社会では、いろいろな人材が自由に動くようになり、「この会社のカルチャーが好きだ」「この人と働きたい」といった感覚で職場を選ぶことが増えています。