若者を集める宗教的ベンチャー企業

池上 スノーピーク以外にも日本にそのような会社はありますか。

入山 たとえばわかりやすいのは、バイオテクノロジー企業のユーグレナですね。「人と地球を健康にする」という教義を掲げた宗教のような存在と解釈することもできます。

 社長の出雲充さんに惹かれて、既存の会社に満足できない若い人たちが「この会社は素敵だ」「これを信じれば自分の心が救われるかもしれない」という思いを抱いています。

 この会社はまだ業績が苦しいこともあるのですが、上場企業でなんと株主の六割以上が個人株主です。ユーグレナの思想が好きだという圧倒的なファンが株を買い、製品を買い、ここで働きたいと応募してくるんです。

 世界的に若者の宗教離れが進んでいるそうですが、その一方で宗教的なベンチャー企業が若者を集めているというわけです。

池上 なるほど。

入山 いま、キリスト教など世界的に、若者の宗教離れが進んでいますよね。宗教学者の島田裕巳さんによれば、高度経済成長期に発展した日本の新宗教は会員が高齢化し、信者数が激減しているそうです。また、ヨーロッパやアメリカでは無宗教の人が増え、日曜のミサや礼拝に通う人が減って、キリスト教の教会の経営が成り立たなくなり、モスクに売却することもあるといいます。

 これは、既存の宗教団体が、「いかに生きるか」を問う若者の受け皿となりえていないのだと思います。つまり、伝統的な宗教では、若者たちをセンスメイキングできない部分が出てきている。

 それに代わる存在として、新しい宗教が出てくるという考えもありますが、実は私は、崇高なビジョン、理念を掲げた「宗教的な企業・ベンチャー」が宗教の代わりを果たしだしているのだと理解しています。

 何もかもが流動的で、先の見えない時代の中で、日本ならスノーピークやユーグレナが掲げるようなビジョン、理念に救いを感じる若者は、さらに増えていくでしょう。伝統的な宗教から信者が離れているのであれば、逆に民間企業の宗教化が進むのは、ある意味では必然なんですね。

<連載ラインアップ>
第1回 なぜ不可能の連続を成し遂げられるのか?ソフトバンク・孫正義氏の「センスメイキング」とは
第2回 「今の日本にはイノベーションが足りない」、ホンダ、ソニー、アップルが行っていた「知の探索」はなぜ重要か?
■第3回 スノーピークやユーグレナにはなぜ熱狂的ファンが集まるのか? いい意味で"宗教的な"企業が増えている理由(本稿)
■第4回 松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫…「お金のためだけじゃない」経営は、なぜ長期的に企業を成長させるのか?(10月24日公開)
■第5回 アメリカ企業のCEOは、なぜ破格の年俸をもらっても周囲から妬まれないのか?(10月31日公開)

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