写真提供:共同通信社

「自由と秩序」の両立によって機能不全から蘇り、飛躍の途へ――。そんな理想を体現した企業が世界には存在する。ルールによる抑圧的な管理を放棄し、人と組織を解き放った革新的なリーダーたちは、何を憂い、何を断行したのか? 本連載では、組織変革に成功したイノベーターたちの試行錯誤と経営哲学に迫った『フリーダム・インク――「自由な組織」成功と失敗の本質』(アイザーク・ゲッツ、ブライアン・M・カーニー著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第1回は、いまだ多くの経営者がコストとして容認する「テイラー主義」(科学的管理法)と「フリーダム・インク」(人々が解放された企業)の関係を解き明かす。

<連載ラインアップ>
■第1回 松下幸之助が40年前に喝破していた「科学的管理法」の弊害とは?(本稿)
第2回 How企業とWhy企業、いずれつぶれるのはどちらか?
第3回 夜間清掃員が社用車を無断使用した“真っ当な理由”とは?
第4回 13年連続赤字の米エイビス、新社長はなぜ経営陣を現場業務に就かせたのか?
■第5回 利益率9%を誇る清掃会社SOLには、なぜ「清掃員」が存在しないのか?(4月30日公開)
■第6回 なぜ経営トップは、5年以上職にとどまってはならないのか?(5月7日公開)

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■はじめに

 自由(フリーダム)は効く。

 政治でも経済でも、娯楽でも家庭生活でも、私たちは生活のあらゆる側面で、誰にも何にも縛られることなく自分で何でも決めたいと思っている。だが、こと仕事になると、官僚的な仕組みやルールがはびこって多くの人がそれらに縛り付けられ、制約され、抑圧され、束縛されてしまっている。職場のルールなど、仕事でベストを尽くせるかどうかとは何の関係もないのだが。こうした制約のおかげで、誰もが職場では自分の思い通りにならないと感じ、ストレスや疲労感によってやる気をなくしてしまう。

 驚くべきことに、このような問題はすでに、いや数十年前から十分に理解されていた。1924年に、3M(スリーエム)の伝説的なCEOのウィリアム・L・マックナイトはこの問題を簡潔に要約している。「自分の周囲に柵が置かれると、人はただ従順な羊になってしまう。人にはそれぞれが必要としている場所を与えたほうがいい」

 マックナイトはこの信念を胸に、3Mで働く人々が創造性と主体性を発揮できる環境づくりに取りかかった。しかし、マックナイトが3Mに築いた文化(カルチャー)は称賛されはしたものの、こぞって真似されることはなかった。それから60年後に、日本の実業家の松下幸之助は太平洋の向こう側を眺めて、競争相手であるアメリカの実業界がいまだにフレデリック・W・テイラーの「科学的管理法」にとらわれていることを喝破した。科学的管理法とは、作業員全員に狭い範囲内での反復作業と詳細な手順を指定して業務を体系化し、作業員がその手順に完璧に従うことを要求する経営手法だ。

 私たちは勝利し、欧米の工業諸国は敗れ去ることになるでしょう。

 なぜなら、皆さんのアメリカの会社は今もなおテイラー主義に従っているからです。もっと悪いのは皆さんの頭の中です。上司が考える仕事をしている間、労働者は工具を使って作業していればよい、ということなのですから。

(しかし)よい経営の本質とは、上司の頭からアイデアを取り出して、労働者の手に生かすことにあるのです。私たちはテイラー主義を超えています。ビジネスは、いまやかなり複雑で難しく、企業が生き残るためには大きな危機を乗り越えなくてはなりません。したがってその存続は、日々知力を振り絞れるかどうかにかかっているのです1

1. Richard Florida and Martin Kenney, The Breakthrough Illusion: Corporate America’s Failure to Move from Innovation to Mass Production (New York: Basic Books, 1990), p. 157. からの引用。