「自由と秩序」の両立によって機能不全から蘇り、飛躍の途へ――。そんな理想を体現した企業が世界には存在する。ルールによる抑圧的な管理を放棄し、人と組織を解き放った革新的なリーダーたちは、何を憂い、何を断行したのか? 本連載では、組織変革に成功したイノベーターたちの試行錯誤と経営哲学に迫った『フリーダム・インク――「自由な組織」成功と失敗の本質』(アイザーク・ゲッツ、ブライアン・M・カーニー著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。
第4回は、経営難にあった米レンタカー会社エイビスの再建ストーリーを紹介。「本社」と「現場」の対立解消により、高成長への軌道修正に成功した新CEOの手腕に迫る。
<連載ラインアップ>
■第1回 松下幸之助が40年前に喝破していた「科学的管理法」の弊害とは?
■第2回 金属部品メーカーFAVIの新しいCEOが目指した「WHY企業」とは?
■第3回 夜間清掃員が社用車を無断使用した“真っ当な理由”とは?
■第4回 13年連続赤字の米エイビス、新社長はなぜ経営陣を現場業務に就かせたのか?(本稿)
■第5回 利益率9%を誇る清掃会社SOLには、なぜ「清掃員」が存在しないのか?
■第6回 なぜ経営トップは、5年以上職にとどまってはならないのか?
■【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(前編)
■【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(後編)
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■成長を促す組織をつくる
ロバート・タウンゼンドは、職場環境を、ニーズを枯渇させる場から与える場に変革した、最初の解放型リーダーだったかもしれない。
1962年にエイビスのCEOに就任した時には、すでにアメリカン・エキスプレス(アメックス)の役員として社内の解放を経験済みだった。アメックスでは、部下のやる気を窒息させるあらゆる要素を取り払うという過激なアプローチを実践した。しかし、これは投資・銀行部門という比較的小規模の組織での経験にすぎなかった。なにしろ、メンバーのほぼ全員がニューヨークの同じビルで働いていたのである。
エイビスにはアメックスとはまったく違う現実が待っていた。アメリカ大陸中に1000箇所ものレンタカー営業所が散らばっていたからだ。しかも、そこは13年間黒字化の努力を必死に続けてもうまくいかず活気を失っている会社だった。
まずはエイビスの黒字化がタウンゼンドの最初の優先事項となり、全事業部を独立採算制にした。それ自体は、さほど特異な方法ではない。最終的な収益責任を現場のマネジャーに委ねて会社全体を赤字から脱却させる―
これは会社の完全な解放に着手する上でタウンゼンドが設定した最初の目標であり条件だった。この責任の移行は、誰がどの仕事を担っているかを明確にする最初のステップだった。しかしこれは、成功した場合に誰の功績になるかという疑問をすぐには解決しなかった。
タウンゼンドは当時をこう振り返る。
「エイビスがついに黒字化を達成した時、経営陣は『我々』対『彼ら』という深刻な対立をつくり出していました。『我々』とは本社にいる頭のよい人たちのことで、『彼ら』とは、それぞれの現場でレンタカーの取引を行って我々の給料を稼いでいる、赤いジャケットを羽織って必死に汗を流している人々のことです1」
1. Warren Bennis and Robert Townsend, Reinventing Leadership (New York: Quill, 1995), pp. 66-67.
タウンゼンドの「農業的」アプローチは、そもそも社員を文字通り平等に取り扱う仕組みであるにもかかわらず、現場の労働者たちは、当初はすんなりとは受け入れなかった。そこで、まずは自由な環境をつくることにした。
タウンゼンドの回想によると、ある月曜日の本社ミーティングで気軽な調子で次の提案を行ったという。