写真提供:共同通信社

 従来とは大きく異なる競争環境で組織が生き残るためには、周囲の変化のスピードを上回る速さで自ら変革を成し遂げられる「自走式」になる必要がある。そして、この自走式組織へと変化を促すために求められているのが、「共感型リーダー」だ。本連載では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄氏による『共感型リーダー まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法』(岩田松雄著/KADOKAWA)から、内容の一部を抜粋・再編集し、組織を自走させるためのリーダーシップについて紹介する。

 第6回は、リーダーが語るべき、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 血の気が多かった徳川家康が、なぜ260年もの太平の世を築けたのか?
第2回 危機的状況でも部下に厳しく言えない…上司が選択すべき最適解とは?
第3回 孫正義の傍らには宮内謙…なぜ成功する経営者には「相棒」がいるのか?
第4回 なぜ「人の良いおっちゃん」は、管理職として不合格なのか?
第5回 リーダーは前に出る? 一歩下がる? 元スターバックスコーヒージャパンCEOが悩んだ末に出した答えとは?
■第6回 京セラ創業時に、若手に突き上げられた稲盛和夫が悟った「経営の意義」とは?(本稿)
第7回 元スターバックスコーヒージャパンCEOも実践する自己認識「ジョハリの窓」とは?

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■ ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を組織全体に示す

「ミッションは人々に、長い道のりを歩んでいくための情熱と忍耐を吹き込んでくれる」

――ピーター・センゲ

 共感型リーダーは、まず組織のミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value=行動指針)(MVV)を確認し、それをしっかり示す必要があります。もし組織にMVVが ない場合は、それらを作成することから始めるべきです。もちろん創業したてのベンチャー企業などは、事業が軌道に乗るまでは、そんな余裕はないかもしれません。自分達の「創業の思い」だけでも明記して、徐々にMVVの形を整えていけば良いと思います。

 1946年(昭和21年)1月、ソニーの創業者の一人、井深大(ファウンダー・最高相談役)が起草した「東京通信工業株式会社設立趣意書」がとても有名です。冒頭部分に、

「…これは、技術者たちが技術することに深い喜びを感じ、その社会的使命を自覚して思いきり働ける安定した職場をこしらえるのが第一の目的であった」

 と設立の趣旨が明記されています。

■ 社長より上位にあるのがMVV

 組織メンバーはリーダーに組織の存在理由(ミッション)と方向性(ビジョン)を求めています。方向性を定めるときは、人々を巻き込んで作成する必要がありますが、MVVを確立し維持して行く最終的な責任は、リーダーにあります。MVVづくりはリーダーの最も重要な責任の一つであり、会社単位であれ、部署単位であれ、チーム単位であれ、組織のパフォーマンスを左右する分かれ目です。

 組織の全員がMVVに積極的に取り組むように促すことが、リーダーの大きな役割です。MVVがトップを含めた全社員の様々な意思決定の拠り所となるべきです。

「メドトロニックの使命――人々を充実した生活に復帰させる――…その使命という光は、北極星のように2万5千人の従業員を照らし、各人が体内に持つ羅針盤を使って、近づくべき規範を常に与える」

――ビル・ジョージ(メドトロニック元CEO)

 人々がMVVを実現するために様々な障害を取り除き、会社の方針や慣行やシステムを変え、MVVに忠実に行動できるようにすることがリーダーの役割です。そうすれば、人々はリーダーにいちいちお伺いを立てるのではなく、自発的にMVVを拠り所として、自由に動けるようになっていきます。いわゆる究極的にフラットな「ティール組織」に近づいていきます(※ティール組織とは、個々の社員に意思決定権があり、社員の意思によって目的の実現を図ることができるフラットな自走式組織形態)