衆院総選挙で大敗した自民党はデフレ脱却という言葉を叫び、躍進した立憲民主党と国民民主党はインフレの弊害を唱えた。国民の関心事が物価高にシフトしている今、経済に対する現状認識が与野党の明暗を分けたのではないか。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
与党大敗後の株高をどう解釈すべきか?
既報の通り、10月27日の衆院総選挙は与党(自民・公明)大敗で幕を閉じた。その投開票について、筆者はテレビ東京の選挙特番に出演しつつ、その趨勢や要人発言を注視した。
印象的だったのが、石破首相はもちろん、躍進を遂げた野田代表や玉木代表といった野党党首たちの表情もさほど楽観的なものではなかったということだ。
玉木代表は選挙後に、「まだ何もやっていないので野党は浮かれている場合ではない」といった趣旨の発言をしているが、「裏金問題が争点化する中、敵失で野党が浮上しただけ」という実情を野党党首たちも理解しているのであろう。
事実、野党単独で比較第一党になれたわけではなく、後述するように、連立政権入りも容易ではないため、今後待ち受ける政局不安定を思えば、明るい表情にはなれないという胸中は理解できる。
同番組中でいくつかのコメントをさせていただいたが、「金融市場でリスクシナリオに分類されていた『自公過半数割れ』が現実化した以上、まずは日本丸ごと売り、トリプル安というファーストリアクションもある」といった見解を紹介した。
周知の通り、現実はそうなっておらず、選挙後の10月28日および29日の金融市場では円安・株高・債券安(金利上昇)の様相で、トリプル安ではない。市場では「既に過去1週間で自公過半数割れは織り込まれていたから」、もしくは「単純に円安を反映しただけ」といった解釈が多いようだ。
実際、前者の説は説得力がある。自公過半数割れが報じられ始めてから日経平均株価は下げ足を早め、1週間で1000円近くも値を落としていた。株だけは「噂で売って、事実で買戻し」だったのかもしれない。
ちなみに、一部では「高市トレードの復活」と次の政局を見据えた動きとして解釈する向きもあるようだ。
円安、株高、債券安が示唆していること
金融市場はいつでも後講釈が跋扈する世界であり、「皆がそう思っていることはそうならない」ことが多い。短期的には意外な動きでも、長期的には結局、理屈通りに収斂することも多い。
直感的に言えば、与党大敗により今後の政局不安定がこの上なく可視化されている中で、株高の持続性に賭けるのは難しい。
筆者は株式の専門家ではないので詳述を避けるが、巷説で言われているように、今の円安や金利上昇がある程度、日本政治の左傾化を懸念した動きなのだとしたら、それでも株高が進んでいることの整合性をあえて見出すとすれば、「日本は制御不能なインフレになる」ということだろうか。
よく知られているようにアルゼンチンやトルコの株価指数は(自国通貨建てでは)非常に高い上昇率を記録している。日本がそうなると予想するつもりはないが、円安・債券安と株高が併存するならば、そのような説明も可能なことは知っておいてもいい。