那須川天心選手が投げかけた疑問

 プロボクサーの那須川天心選手が、大谷選手の活躍を伝える報道について問われ、「テレビをつければ大谷翔平じゃないですか。みんなどうなんですか。飽きちゃわないですかね。でも、それだけすごいことしているってことなのかなあ、と思いますね」と発言して、賛否両論の論議を巻き起こしたというものです。

 大谷選手一辺倒になっている「報道の姿勢」に疑問を投げかけただけで、炎上するのが今の日本の空気なのだろうかと興味を持ちました。那須川選手の発言はテレビの生放送でのものだったそうですが、VTR収録だったら、果たしてその部分は使われたのでしょうか…。

 仮に一般市民の「街の声」で同じような発言があったとしたら使われることはないでしょう。英雄について、マイナス発言は邪魔扱いされて間違いなくカットされます。

プロボクサーの那須川天心選手は大谷選手一辺倒のスポーツ報道に疑問を投げかけた。写真はWBOアジア・パシフィック・バンタム級王座決定戦に勝利した翌日(10月15日)に開いた記者会見のもの(写真:共同通信社)

 大谷選手の話題に限らず、明るく楽しい場面では、幸福感を表す言葉でなければいけないのが「一般市民の声」の「掟」のようです。

芋掘りイベントで「楽しくなかった子ども」はいないことに

 たとえば芋掘りなど、子どもたちが参加した屋外イベントのニュースで使われるのは、十中八九、「たのしかったぁー」という言葉です。ここでは、楽しくなかった子どもはいないことになっています。

 これも一種の美談で、紋切り型の典型です。こういう季節の風物詩を伝える際は、十年一日の思考停止状態だとしても、明朗快活な表現しかありえないと割り切るのが不文律です。

 しかし、簡単に割り切ってはいけない「街の声」の乱用があります。