斎藤元彦・兵庫県知事の疑惑は格好のテレビネタ

 半年くらい前から、ニュース番組やワイドショーは、兵庫県の斎藤元彦知事(当時)のパワハラ疑惑について、連日のように取り上げていました。テレビは、単純な二項対立を取り上げるのを好む傾向があり、その点において、格好のネタだったように思います。

 この問題は、パワハラ疑惑を内部告発した前・西播磨県民局長A氏と知事の対立構図が鮮明でした。告発文書を報道機関に送付したA氏は、その後、県の公益通報窓口にも通報しました。

 一方、斎藤氏は告発文書を「うそ八百」と非難し、公益通報の調査結果が出る前にA氏を停職3カ月の懲戒処分にしました。A氏が死亡すると、今度は県議会と斎藤氏とが対立し、県政の停滞と混乱を招きました。そして、斎藤氏の不信任決議が可決され失職するに至りました。
 
兵庫県の恥だ。

 この問題を取り上げる時に、こうした兵庫県民の声も頻繁に使われていました。「人として許せない」「辞めないのは、どうかしている」など、人格否定の発言も多々ありました。毎日、繰り返し、繰り返し、斎藤氏を糾弾する「街の声」ばかりを伝えてきたのです。

 私は兵庫県民ではなく、もともと「街の声」に対して冷ややかなスタンスなので、一歩引いて聞いていました。それでも、何度も反復されると、それが統一見解のように固まっていく感覚がありました。

 権力者の問題や疑惑について真相解明や責任追及を果敢に実行するのはメディアの重要な使命です。したがって、斎藤氏の疑惑に対して厳しく切り込んでいくのは当然のことです。

不信任決議を受け失職し、兵庫県庁を退庁する斎藤元彦知事(写真:共同通信社)