自分が何か重い病気にかかっているのではないかと思い込み、過度の不安を感じてしまう心気症。ネットや生成AIで気軽に医療情報にアクセスできる今、自ら勝手に病気かどうかを判断してしまう「サイバー心気症」も増えている。この「サイバー心気症」を防ぐにはどうすればいいのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)
無視できない「サイバー心気症」のリスク
「心気症」と呼ばれる心理状態がある。本当のところは分からないのに、自分が何か重い病気にかかっているのではないかと思い込み、過度の不安を感じてしまう状態のことだ。
たとえば、テレビのワイドショーなどで特定の病気が特集されると、そこで示された諸症状に自分の体調が当てはまるのではないかと感じ、「もしかしたら自分も」と気に病んでしまうといった具合である。
程度の差はあれど、誰もがこのような心理状態に陥った経験があるのではないだろうか。
この心気症、インターネット時代になってさらに深刻な問題になっていると言われている。それはインターネットを通じ、根拠のない医療情報にいくらでもアクセスできてしまうためだ。
そういったオンライン上の怪しい情報を漁り、医師の診断を受ける前に(時には受けた後でも)、自分で勝手に「あの病気にかかってるんじゃないか」と判断してしまうことを「サイバー心気症」と呼ぶようになっている。
このサイバー心気症も、多くの人に心当たりがあるに違いない。COVID-19が流行し始めたころ、検索エンジンに「新型コロナウイルス 症状」などのキーワードを入れて、「自分が熱っぽいのはもしや」と疑ったという人は少なくないはずだ。
もちろん必要な情報を収集し、適切な対策を取るというのは悪いことではないが、問題はネットに質の悪い医療情報があふれているという点だ。
それと素人判断が結びつくと、不要なストレスを感じてしまったり、そこから心身に悪影響が及んだり、さらには何らかの問題行動に及んでしまったり(オンライン上で見つけた効果のない民間療法にすがるなど)するリスクが生まれる。
さらに、サイバー心気症の心理状態になった人々は強迫的にネット検索を行い、得た情報を誤って解釈するようになると指摘されている。つまり、ますますサイバー心気症から抜け出すのが難しくなるわけだ。
実際に米国で行われた調査によれば、オンライン上での健康関係の検索が不安を高め、不要な受診を促し、不要な治療行為を受けることへとつながり、最終的には医療関係のインシデント(そうした不要な治療を受けたことによる事故など)の増加をもたらしているとの結果が出ている。
そして今、こうしたサイバー心気症に陥る可能性が、さらに上昇しているとの指摘がなされている。その原因となっているのが、お馴染みの生成AIだ。