事業性を懐疑的にみていたが「奥深い挑戦」である

 2050年のカーボンニュートラルに向けて、トヨタはマルチパスウェイという方針がある。その中で、AE86 BEV Conceptは、これから登場する新車だけではなく、既販のクルマのカーボンニュートラル化を考える上での選択肢としてのひとつ、という提案である。

 実際に車両を制作する中で、ドライバーが走行中に電気自動車であることをあまり意識しないような走行フィーリングを出せることが分かったという。

 一方で、課題としては航続距離が短いことによる利便性の確保や、車両の重量が軽いAE86の本来の乗り味と、電気自動車としての重量増による影響のバランスの取り方を挙げた。

 筆者はこれまで、2023年の東京オートサロンで、豊田章男会長(当時社長)がAE86 BEV Conceptを世界初公開した現場や、国内モータースポーツのスーパー耐久シリーズ開催地での車両展示など、これまで何度かこのモデルを取材している。

 あわせて、Vintage Club by KINTOについても、「70スープラ」や「80スープラ」といった旧車を試乗した経験がある。

 その上で、AE86 BEV Concept について、発想は十分理解できるのだが、正直なところ事業性については懐疑的であった。

 だが今回、ユーザーの声、販売店担当者の声、そして開発担当者の声を聞く中で、既販のクルマのカーボンニュートラル化などを考える上で、ユーザーと販売店にとってはとても分かりやすい挑戦であり、そしてトヨタ(レクサス)にとっては将来に向けてとても奥深い挑戦であることを実感することができた。

 またの機会に、筆者自らがハンドルを握り、AE86 BEV Conceptを味わってみたいものだ。

桃田 健史(ももた・けんじ)
日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。
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