耐え難い悲劇が不仲の親子「まひろと賢子」を寄り添わせた

 だが、どんなに悲劇的な最期であっても、何かしらの光は差すものである。ドラマでは、惟規の死に泣き崩れるまひろを見た娘の賢子(かたこ)が背中をさすり、まひろは賢子の胸でむせび泣いた。

 今回の放送では、為時とまひろがかつて不仲な親子だったことを振り返りながら、惟規が「親子って変わらないようで変わるんだな」と語る場面もあった。娘の賢子との関係に悩むまひろを、勇気づけようとしたのである。自分の死が2人の和解のきっかけになったのであれば、姉想いの惟規としても少しは無念さが晴れるのではないだろうか。

 ドラマでは、賢子が平安時代の女性にとっての成人式にあたる「裳着(もぎ)の儀」を迎えるが、「宮仕えはいたしません。母上と同じ道を行きたくはございません」と母に反発する場面もあった。

 だが、実際の賢子は母と同じく彰子に仕える道を選ぶことになる。そればかりか、高貴な男性たちとの恋愛を楽しみ、母以上に宮中での生活を満喫したくらいだ。

 放送の終盤で、和解の兆しが見られたことで、賢子がまひろと心の距離をどう縮めていくのかも、今後の見どころとなりそうだ。

 今回の放送で初登場となったのは、道長の次女、妍子(きよこ)である。彰子とは違い、ずけずけとものを言うタイプなので、何かしら物議をかもしそうである。

 これまでもっぱら彰子がクローズアップされてきたが、長男の頼通や、今回登場した妍子など道長の子どもたちや、まひろの娘・賢子も物語の展開に大いに絡んでくることだろう。

 次回の放送は「君を置きて」。いよいよ一条天皇の最期も近い。最終回に向けて世代交代の波が押し寄せつつある。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。