猜疑心は増すばかりだ

 公明党は例えば石井新代表が総務省の政治資金適正化委員会を改組することで、より独立性と強力な権限を行使できる「政治資金監督委員会」の設置を提案した。これは例えば衆議院の政治改革特別委員会における東京大学・谷口将紀教授の提案と相当程度重複する内容だ。リアリティがあるともいえる。

 自民党が本当に「生まれ変わった」のだとすれば、なぜこうした積極的な提案が出てこないのだろうか。

 さすがに法的拘束力がない附則に記されているとはいえ、これだけ関心が集まっているなかで先送りすることはないと信じたいところだが、かといって楽観視も難しい。

 というのも自民党を素朴に信頼できるのだとすれば、なぜ党議決定したはずの「政治改革大綱」が効力をもたず、党則や改定も行ったはずのガバナンス・コードはいったいどのようなものかということになってしまう。猜疑心は増すばかりである。

 いま、筆者が懸念しているのは、規模や権限、人員等が少なく、お茶を濁すだけの「第三者機関」が拙速に設置されてしまうことだ。それが「改革」の「成果」としてまかり通るなら目も当てられない。

立憲民主党もたった一文

 野党第一党立憲民主党はどのように言及しているのだろうか。立憲民主党は自民党に先駆けて衆院選マニフェストを公表した。

立憲民主党2024政策パンフレット「政権交代こそ最大の政治改革。」

 賑々しく、「政権交代こそ最大の政治改革。」を掲げる。その筆頭に来るのが「政治改革」であり「政治の信頼回復」だ。それ自体は好ましいのだが、実は中身が薄いか抽象的だ。

 確かに「第三者機関の設置」には言及している。

「政治資金に関する独立の第三者機関を設置します。」(前述の公約p.15)

 しかし、ただ、この一文だけなのである。繰り返すが、第三者機関の設置それ自体はすでに改正政治資金規制法の附則に記されていて期限まで書き込まれている。多くの人が十分この問題を認識しているかということはいささか心許ないので「争点」とまではいえない気がするが、少なくとも潜在的争点はその具体的な姿であり、本来はそこを与野党でアイディアを持ち寄り切磋琢磨すべき事項のはずである。

 しつこいが立憲民主党の公約集には、それがない。改正政治資金規制法の附則第十五条には次のように記されている。

(政治資金に関する独立性が確保された機関の設置)
第十五条 政治資金に関する独立性が確保された機関については、政治資金の透明性を確保することの重要性に鑑み、これを設置するものとし、政策活動費の支出に係る政治活動に関連してした支出に関する当該機関による監査の在り方を含めその具体的な内容について検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

 自民党は言及すらせず、立憲民主党でさえ、この附則の具体的内容に踏み込まないままなのである。参院の合区解消には言及があるのだが、政党法については記述がない。

 附則にはほかにもいろいろな「これから検討する政治改革」の方向性が記されている。そのひとつが政策活動費の上限や10年後の公開が遅すぎるとされているが、その具体的な内容である。

(政策活動費の支出に係る上限金額の設定及び使用状況の公開に関する制度の具体的な内容)
第十四条 政党が当該政党に所属している衆議院議員又は参議院議員に係る公職の候補者に対してする支出で金銭によるもの(以下この条及び次条において「政策活動費の支出」という。)については、政策活動費の支出の各年中における上限金額を定めるとともに、第一条改正後政治資金規正法第十二条第一項の報告書が第一条改正後政治資金規正法第二十条第一項の規定により公表された日から十年を経過した後に政策活動費の支出に係る金銭に相当する金銭を充てて政治活動に関連してした支出の状況に係る領収書、明細書等の公開(そのための保存及び提出を含む。)をするものとし、その制度の具体的な内容については、早期に検討が加えられ、結論を得るものとする。

 
 また附則第十六条の検討事項も同様で、外国人等の政治資金パーティー券の購入の実効的規制のあり方や、指摘が相次いだ政党支部への寄附の控除などに関するものなどである。

 (検討)
第十六条 外国人、外国法人等がする政治資金パーティーの対価の支払に係る収受の適正化を図るための実効的な規制の在り方については、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
2 個人が政治活動に関する寄附をした場合の寄附金控除の特例及び所得税額の特別控除(次項において「寄附金控除の特例等」という。)の対象の拡大、当該特別控除に係る控除率の引上げその他の個人のする政治活動に関する寄附を促進するための措置の在り方については、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
3 公職の候補者が選挙区の区域(選挙の行われる区域を含む。)を単位として設けられる政党の支部で当該公職の候補者が代表者であるものに対してする政治活動に関する寄附を寄附金控除の特例等の適用の対象としないための措置の在り方については、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

 さすがにというべきか、不思議なことにというべきか、こちらの第十六条に係る事項について立憲民主党は、政策活動費は廃止、外国人によるパーティ券購入は禁止、政党支部への寄附金控除の適用を禁止すると言及している。そうであるからこそ、本丸である第三者機関の具体的内容の提案がないのは惜しかったともいえる。