(歴史ライター:西股 総生)
大事なのは順序よく城内を歩くこと
(前稿から)「戦国の城の写真あるある」のうち、もっとも多くの人を悩ませているのは、前稿に挙げた四つのうちの③、「どこを写したカットなのかわからなくなってしまう」ではなかろうか。
なぜ、そうなってしまうのかというと、被写体となる土塁や空堀が、どれも同じような形をしているからだ。曲輪に至ってはただの地面、切岸はほとんど崖にしか写らない。
ではどうするかというと、②の解決策を応用すればよい。たいがいの城には、要所要所に何かしら看板や標柱が立っている。そこで、主郭へ行ったらまず、「主郭・本丸」の表示を入れたカットを撮り、それから周囲の土塁や空堀、虎口を撮る。
次に二ノ曲輪に行ったら、まず標柱を…、という具合に撮ってゆくのだ。逆に、登り口でまず一枚撮ったら、主郭にたどり着くまでは、迂闊にシャッターを切らないように心がけるわけだ。
いい方を換えるなら、順序よく城内を歩くことが大事、というわけである。一番よくないのは、数人の仲間といっしょに城へ行って、「この虎口、いい!」「こっちに凄い堀切があるよ!」といった具合に右往左往して、そのたびにシャッターを切ることだ。
登り口から主郭を目ざしたら、主郭→北ノ曲輪→二ノ曲輪→三ノ曲輪といった具合に、順序よく遺構を見て歩くようにする。これなら、帰宅してからでも縄張図や案内図(または説明板を撮ったカット)と照らし合わせて、どこを撮ったのか思い出しやすい。
ここで「戦国の城の写真あるある」を退治する、最大の秘訣を伝授しよう。それは、何でもかんでもやたらに撮らないことだ。撮っても藪にしか写らないと思ったら、潔くあきらめる。ないしは、撮ってみて藪にしか見えないと思ったら、その場で速攻消去する。見た遺構を全部写真に撮っても、容量を食うだけで、資するところは何もない。
この秘訣と、順序よく歩きながら表示類をこまめに撮る、という方法とを組み合わせれば、「どこを写したカットなのかわからなくなってしまう」問題は、かなり解決できる。それに、ダメと思ったら潔くあきらめたり消去する、という行為を繰り返すことは、構図のセンスを磨く効果もある。
最後に、④の映えない問題について。この問題の責任は、あなたの側にはない。被写体が悪いのである。何といっても戦国の城の場合、被写体はほとんど土と草木ばかりで、色相的には茶色と緑ばかりだからだ。せいぜい石積のグレーが加わるくらいで、こんなものを普通に撮っても、映えるわけないではないか。
したがって一番手っ取り早い解決法は、潔く「映え」をあきらめることである。ではあるのだが、あきらめのつかない人には、救いの道が残されていなくもない。それは、地面と草木=茶色と緑を、少しでも美しく撮る方法を工夫することだ。
具体的には、まずライティングにこだわる。城跡に差す光を注意深く読んで露出を工夫し、地面と草木が美しく見える瞬間を切り取る。また、被写体が地面と草木であることを逆手にとって、廃墟感が出るような画面構成を工夫してみる。
ここから先は、各人工夫してセンスと技術を磨くしかない。未踏の分野ではあるが、王道がないぶん、成功すればオリジナリティ溢れる作品を生み出せるかもしれない。
以上、筆者の体験をもとに、戦国の城を撮るコツについてザッとまとめてみた。少しは参考になっただろうか。
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