(歴史ライター:西股 総生)
「戦国の城の写真あるある」
秋が深まってくると、城歩きに行く機会が増えるという城好き・歴史好きの人は多い。近年は建物が残っていない、土と石だけの戦国の城を歩く人も増えてきて、そうした城をカメラやスマホで写真に撮ることも多いと思う。
そこで問題になってくるのが、「戦国の城の写真あるある」だ。具体的には、以下のような現象が挙げられよう。
①遺構(土塁や空堀)を撮っても藪しか写らない。
②どのカットまでが一つの城で、どこからが次の城だか区別できなくなってしまう。
③どこを写したカットなのかわからなくなってしまう。
④映えない。
こうした「あるある」に行き当たった人は少なくないはずだが、上記のうち①については、本サイト6月26日掲載「土の城を撮るなら広角レンズで」で解決法を示している。
ざっとおさらいしておくと、戦国の城を撮る場合は広角レンズを使うことが多いが、広角レンズは広い範囲を写し込めるのと同時に、遠近感が強調されて写るという特性を持っている。このため、遠くにある土塁や堀は肉眼で見るより小さく、手前にある草木は大きく写ってしまう。藪ばかり写ってしまう原因は、これである。
解決策として、広角レンズはできるだけ踏み込んで被写体に近づくのが鉄則となる。また、遠近感が大きくなる分、撮影位置を少し変えるだけで、手前にある草木の入り方が大きく違ってくるから、立ち位置やカメラの位置をコマメに動かして、手前にある草木をかわすポイントを見つけるとよい。要は、自分が使っているレンズの描写特性を頭に入れておくことが、撮影技術のステップアップにつながるのである。
では、「あるある」の②~④を解決するにはどうしたらよいか。実は、②~④が生じる原因はすべて同じで、それは戦国の城の特性に起因するものだ。
戦国の城は、「ほぼほぼ土、ときどき石」で、そこに何かしら草木が覆いかぶさる。したがって、どの城のどの部位を撮ろうが、写っている情景は基本同じで、色彩的には緑と茶色が画面のほとんどを占める。絵柄が似たりよったりなのだがら、何を写したのか区別がつきにくいのも、映えないのも当然なのである。では、どうすればよいか。
まず、②の解決法を考えてみよう。②の現象に悩んでいるのは、休日ごとに城歩きに出かける人や、一日に何城も回る人であろう。であるなら、城へ行った時、最初に撮るカットに場所や時系列を特定できる物を写し込めばよいのだ。
具体的には、説明板・案内板や標柱のたぐいだが、登り口でまず一枚撮るようにする。案内板や標柱がなければ、バス停や路肩に停めた自分の車などでもよいし、登り口の情景だけでもかまわない。そうした「区切り」を示す被写体を一枚撮るまでは、土塁や空堀を撮らない、というクセをつける。
山城なら、最初に城址遠望のカットを撮るのもよい。城址遠望のカットを撮るためだけに城の周りをウロウロするのは、一見面倒くさいし、タイパも悪そうな気がするかもしれない。でも、城地の地形を観察することにつながって、城を見る目を養う効果が大きいから、決して無駄ではない。(つづく)
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