(歴史ライター:西股 総生)
土の城を撮る基本は広角レンズの使いこなし
建物も石垣もない中世~戦国時代の城、いわゆる土の城を歩く人が増えてきた。ほんの十数年くらい前まで、土の城を歩くのは専門の研究者か、ごく少数のマニアの領域だった。けれども今は、城好き・歴史好きな人々の中で一つのジャンルとして確立されている。
となれば、それを写真に撮りたい人が出てくるのも当然であるが、「どうもうまく撮れない」という声を、しばしば耳にする。なるほど、たしかに近世城郭を撮る方法論の延長上で土の城を撮っても、うまくゆかないようである。
端的にいうなら、近世城郭は風景写真の技術・方法論を応用すれば、きれいに撮れる。けれども、山の中に眠っている空堀や土塁は、風景写真の方法論だけではうまく作画できない。筆者の実感からいうなら、土の城を撮る方法論は、遺跡調査などの学術調査・研究用写真のそれに近いように思う。
とはいえ、一般の歴史好き・城好きの人たちは、考古学の実践訓練など受けたことはないだろう。そこで今回は、土の城をうまく撮る最大公約数的な基本を、初心者にもわかりやすく説明してみよう。
ズバリ、土の城を撮る基本は、広角レンズの使いこなしにある。もちろん、単焦点ではなくズームの広角側でもよい。近世城郭とちがって土の城では、土塁や空堀、あるいは切岸や曲輪を写すことになる。要するに、草木に覆われた地面が被写体になるわけだ。これなら、よほど個性的・芸術的な作画を狙うのでないかぎり、さほどの高画質・高解像度は必要ない。それなら、普及版ズームの広角側でも充分なのである。
問題は焦点距離(画角)だが、土の城でもっとも使いやすい焦点距離は、35mm判換算でズバリ24mmである(APS-Cなら16mm、マイクロフォーサーズなら12mmが相当)。一般的に、広角レンズとしてもっとも使いやすいのは28mm(APS-Cフォーマット18mm、マイクロフォーサーズ14mm)だが、土の城の場合は24mmが標準レンズと考えてよいくらいだ。実際、単焦点の24mmを1本カメラにつけて行けば、ほぼ間に合ってしまう。
なので、もしズームを選べるのなら、24mm域をカバーするズームの方が有利だ。28mmの画角は74度だが、24mmは画角が84度ある。この画角10度の差が、土の城ではけっこう効いてくるからだ。
たいがいの土の城は、草木が生えていたり、地面に起伏があったりして、カメラワークが制限される。写真用語でいうところの「引きがない」状態を強いられるわけだ。実際、土の城を撮っている方なら、「曲輪が広すぎて入りきらない」「空堀が入りきらない」という経験をされていると思う。この状況下で、画角10度の差がモノをいう。
もっとも、24mmを持っていないからといってことさらに悲観する必要はなく、次善の策としては28mmでもまあまあイケる。現在の普及版ズームは広角側が28mmから始まるものが多いので、それでもまあまあ撮れるが、24mmならモアベターというわけだ。だから、今28mmを使っている人は、土の城を撮る機会が多いのなら、先々新しいレンズに買い替えるときには24mmにした方がいいですよ、という意味に受け取っていただきたい。
こういう話をすると、それならもっと画角の広いレンズの方がよいのでは?と思う方もいるだろう。けれども、24mmより広い20mmや18mmといった超広角レンズは、あまりお薦めできない。
なぜなら、画角が広くなれば広くなるほど遠近感が強調される描写になって、手前側の被写体が極端に大きく、奥の被写体が極端に小さく写ることになるからだ。20mmや18mmになると、明らかに人間の視覚を超越した画面になるため、超広角レンズを使いこなす修練をみっちり積まないと、うまく撮れないのである。(つづく)