(歴史ライター:西股 総生)
天守や石垣を撮るなら「35mm」
(前編からつづく)35mmと50mmは、高性能の単焦点レンズが比較的リーズナブルな価格で手に入ります。なので、興味と多少の予算がある方は、35mmや50mmの単焦点レンズを使ってみることをお薦めします。ズームレンズを使っている方は、ズームリングを35mmや50mmのところにセットした状態で撮るよう心がけるとよいでしょう。
ここでは、天守や櫓、門といった城郭建築を中心として、35mmと50mmで城を撮るときのポイントを説明しましょう。
35mmレンズの画角は67°です。スナップレンズといわれるほど使い勝手のよい画角をもったレンズで、観光地などで景色をバックに人を撮るときや、小人数の集合写真にもうってつけです。画角の広がりが自然で、遠近感もさほど強調されないからです。筆者の長年の経験からいっても、天守や石垣を、もっとも無難に画面に収められるのが35mmです。
プロの人や上級者はもっと強力な広角レンズ、つまり28mmや24mmを好みますし、さらには20mmや18mmといった超広角でチャレンジングな写真も撮ります。しかし、強力な広角レンズは遠近感も極端について、人の視覚を超越した描写になるので、使いこなすには修練を要します。おまけに高価です。ざっくりいうと、画角が広い(=焦点距離が短い)レンズほど、値が張ります。
なので、城の写真をワンランクアップさせたい、と思っている人は、まずは35mmの画角をキッチリ使いこなすところから始めることを、おすすめします。ただ、気を付けたいのは35mmは使い勝手がよいといっても、やはり広角レンズだということです。ここが陥し穴で、遠近感は人間の視覚よりは強調されて写ります。
城の写真に即して具体的にいうと、天守を撮ったときに上層階が小さめに、上すぼまりな感じに写ります。上層階の方が、下層階よりもレンズから遠いからです。なので、アングルに気をつけないと、そっくり返ったような写り方になってしまいます。
逆にいえば、天守が堂々とそびえているような感じに、下から振り仰ぐアングルで撮ると、28mmや24mmに負けない迫力ある画面ができます。この場合、天守台や天守下層を、できるだけ画面の横幅いっぱいにフレーミングするのがコツです。
では、天守が上すぼまりにならないように写すには、どうしたらよいでしょう。こんなときが、50mm標準レンズの出番です。遠近感が人間の視覚に近いので、天守のプロポーションをナチュラルに写し取れるのです。
50mmでうまく収まるよう前後左右に動いて、フレーミングを工夫してみましょう。天守の全体が収まらないこともありますが、そんなときは思い切って、建物の一部を画面の外に切り捨てたり、一部だけを切り取ってみましょう。50mmのこういう微妙な不自由さを手なずけることで、フレーミングのセンスが磨かれるのです。
もう一つ、レンズによる被写界深度の違いも、意識しましょう。50mmにくらべて35mmは広角な分、被写界深度が深くなります。35mmなら、絞りはf8でほぼ何でも無難に撮れます。とりあえずf8にしておき、奥行きのある画面をカッチリ撮りたいときは、f11やf16まで絞るとよいでしょう。
50mmなら35mmより被写界深度が浅めになります。その分、絞りによる被写界深度の違いを実感しやすいでしょうから、いろいろ試しながら、絞りの使い分けを体得するとよいでしょう。