上田城北櫓 撮影/西股 総生(以下同)

(歴史ライター:西股 総生)

◉旧式レンズで城を古城っぽく撮ってみた(前編)

冬の小諸城・上田城・松本城を撮る

(前回から続く)旧式レンズを使って古城っぽい写真を撮る、という行為は、そんなにロマンチックではない。何せ、半世紀近くも前に作られたレンズだから、ピント合わせはもちろん手動。ファインダーを覗きながら、自分の指でヘリコイド(ピントリング)を回さなくてはならないが、金属鏡筒のひんやりした感触が、冬の信州では指先にしみる。

写真1:雪の積もった朝の小諸城は寒かった

  43〜86mmをDfと組み合わせた場合、露出は一応、絞り優先オートが使えることになっている。ただし、精度は期待できないから、撮影画像をいちいち確認しながらコマメに露出補正をかける。昔の大砲で、一発ずつ弾着を見ながら照準を修正する、みたいな撮り方だ。要するに、手間がかかって面倒くさいのである。

 しかも、手間をかけても撮れる写真はきれいではない。写真2は小諸城の三ノ門を撮ったものだが、見ていただくとわかるように、明らかに発色がよくない。今どきのレンズなら、多少光線状態がよくなくても、もっときれいに写るだろう。

写真2:小諸城の三ノ門。旧式レンズゆえ発色がよくない

 写真3は松本城の天守。画面の周辺部で光量が落ち込んでいる上に、像が流れているのが、素人目にもわかるだろう。歪曲収差もいかんともし難く、まるで天守が傾いているかのようだ。

写真3:松本城天守群。旧式レンズの問題点が最大限に出た写真だが、不思議と古城っぽい

 でも、こんな欠点だらけのレンズだからこそ、どの被写体をどう撮ろうかと知恵を絞る面白さがある。どんな被写体でもきれいに写してしまう最新の優等生レンズでは、決して味わうことのできない楽しさ、と負け惜しみを言っておこう。

写真4:小諸城にて。雪に覆われた石垣をズームの望遠側で切り取ってみる

 などと、屁理屈をこねながら撮っているうちに、思いついた。どうせ、発色も解像度も悪いのなら、いっそモノクロ写真にしてしまえ! と。さいわい今どきのデジカメは、モードを切り替えるだけでモノクロ写真を撮れるし、カラーで撮ったカットからモノクロ画像を起こすこともできる。こんな時は、最新機能が都合よくありがたい。

 ということで、開き直って上田城の西櫓を撮ってみたのが写真5。絞りをあえて開放にして、旧式レンズの「甘さ」を最大限に引き出してみた。かなり甘い感じに写ったが、子供の頃に見ていた城の本に載っていた写真って、こんな感じだったよね。

写真5:上田城の西櫓(現存)。1970年代な感じが出たかなあ?

 なるほど、これなら古城っぼく、というか昭和っぽく撮れそうだ。ただ、旧式レンズの場合、絞りを変えると被写界深度だけでなく、解像度やコントラストも露骨に変わる。おまけにカメラとの連動が甘いので、絞りを変えると適正露出も変わってしまう。レンズのワガママさに振り回される感じだ。

写真6:松本城。二ノ丸から本丸石垣越しに天守を狙ってみた

 古城っぽさが出るよう、画面の切り取り方にも気を配る。たとえば、現代的な構造物が画面に入らないよう、構図やアングルを工夫してみる。邪魔ものは、石垣や樹木で隠してしまうのだ(写真6)。思い切って部分をアップにするのも手だ(写真7)。

写真7:松本城天守はこの方向からだと不格好さが際立つが、そのぶん古城感も出る

 今どきのデジカメは、メーカーや機種によってさまざまな機能が搭載されている。どの機能をどう組み合わせれば、どんな効果が得られるか、自分なりに試しながら撮ってみる。

 写真8は小諸城の天守台だが、開放絞りでの描写が甘さや、画面周辺部の落ち込みを「味」として利用、というか悪用してみた。黒澤映画に出てくる城みたいでしょう?

写真8:小諸城の天守台。昔の映画のワンシーンっぽく切り取ってみた

 あとは、旧式レンズで撮る面倒くささ、思い通りにいかないもどかしさを、ウザイと感じるか、楽しいと感じるか、である。