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(歴史ライター:西股 総生)
冬の小諸城・上田城・松本城を撮る
(前回から続く)旧式レンズを使って古城っぽい写真を撮る、という行為は、そんなにロマンチックではない。何せ、半世紀近くも前に作られたレンズだから、ピント合わせはもちろん手動。ファインダーを覗きながら、自分の指でヘリコイド(ピントリング)を回さなくてはならないが、金属鏡筒のひんやりした感触が、冬の信州では指先にしみる。
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43〜86mmをDfと組み合わせた場合、露出は一応、絞り優先オートが使えることになっている。ただし、精度は期待できないから、撮影画像をいちいち確認しながらコマメに露出補正をかける。昔の大砲で、一発ずつ弾着を見ながら照準を修正する、みたいな撮り方だ。要するに、手間がかかって面倒くさいのである。
しかも、手間をかけても撮れる写真はきれいではない。写真2は小諸城の三ノ門を撮ったものだが、見ていただくとわかるように、明らかに発色がよくない。今どきのレンズなら、多少光線状態がよくなくても、もっときれいに写るだろう。
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写真3は松本城の天守。画面の周辺部で光量が落ち込んでいる上に、像が流れているのが、素人目にもわかるだろう。歪曲収差もいかんともし難く、まるで天守が傾いているかのようだ。
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でも、こんな欠点だらけのレンズだからこそ、どの被写体をどう撮ろうかと知恵を絞る面白さがある。どんな被写体でもきれいに写してしまう最新の優等生レンズでは、決して味わうことのできない楽しさ、と負け惜しみを言っておこう。
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などと、屁理屈をこねながら撮っているうちに、思いついた。どうせ、発色も解像度も悪いのなら、いっそモノクロ写真にしてしまえ! と。さいわい今どきのデジカメは、モードを切り替えるだけでモノクロ写真を撮れるし、カラーで撮ったカットからモノクロ画像を起こすこともできる。こんな時は、最新機能が都合よくありがたい。
ということで、開き直って上田城の西櫓を撮ってみたのが写真5。絞りをあえて開放にして、旧式レンズの「甘さ」を最大限に引き出してみた。かなり甘い感じに写ったが、子供の頃に見ていた城の本に載っていた写真って、こんな感じだったよね。
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なるほど、これなら古城っぼく、というか昭和っぽく撮れそうだ。ただ、旧式レンズの場合、絞りを変えると被写界深度だけでなく、解像度やコントラストも露骨に変わる。おまけにカメラとの連動が甘いので、絞りを変えると適正露出も変わってしまう。レンズのワガママさに振り回される感じだ。
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古城っぽさが出るよう、画面の切り取り方にも気を配る。たとえば、現代的な構造物が画面に入らないよう、構図やアングルを工夫してみる。邪魔ものは、石垣や樹木で隠してしまうのだ(写真6)。思い切って部分をアップにするのも手だ(写真7)。
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今どきのデジカメは、メーカーや機種によってさまざまな機能が搭載されている。どの機能をどう組み合わせれば、どんな効果が得られるか、自分なりに試しながら撮ってみる。
写真8は小諸城の天守台だが、開放絞りでの描写が甘さや、画面周辺部の落ち込みを「味」として利用、というか悪用してみた。黒澤映画に出てくる城みたいでしょう?
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あとは、旧式レンズで撮る面倒くささ、思い通りにいかないもどかしさを、ウザイと感じるか、楽しいと感じるか、である。