(ライター、構成作家:川岸 徹)
20世紀のイタリアやアメリカにて、絵画、デザイン、絵本など多彩な分野で活躍したレオ・レオーニ。遺族の協力のもと、長年にわたる調査研究を通して明らかになったレオーニの活動の全貌を紹介する。
小学校の教科書でおなじみ?
レオ・レオーニの絵本『スイミー』は、もちろん知っている。だが、「小学校の教科書に載っていたよね」と言われると、まったくピンとこない。調べてみると、『スイミー』が小学2年生向けの国語の教科書に採用されたのは1977年のこと。1968年生まれの記者がピンとこなかったのも仕方がない。日本では1970年以降の生まれの人が、「スイミー=教科書」世代といえるだろう。
記者は「スイミー=図書館」世代だ。小学校時代に図書館で借りて読み、そのストーリーに夢中になった。スイミーは真っ黒なおさかなで、仲間やまわりの魚たちは赤いおさかな。スイミーは海を自由に泳ぎたいのだが、ほかの魚たちはマグロに食べられるのが怖いからと隠れている。そこでスイミーは「みんなで集まって大きな魚のふりをして泳ごう」と。スイミーは黒いからだを生かして、大きな魚の目の役割をつとめるというストーリーだ。
そんな『スイミー』の作者として知られるレオ・レオーニの生涯にわたる制作活動と、レオーニと影響関係にあったアーティストたちを併せて紹介する展覧会「レオ・レオーニと仲間たち」が開幕。会場は板橋区立美術館になる。
板橋区とレオーニの幸せな関係
まずはレオーニと板橋区立美術館の関係について、簡単に紹介しておきたい。古くから印刷・製本産業が盛んな板橋区は、世界で唯一の子どもの本専門の国際見本市を開催するイタリア・ボローニャと提携するなど、「絵本のまち」としての取り組みを進めてきた。
その取り組みの一環として、板橋区立美術館では1996年にレオーニ自身が全面的に協力した日本初の「レオ・レオーニ展」を開催。レオーニは1999年に逝去するが遺族との交流は続き、2020年には2回目のレオーニ展となる「だれも知らないレオ・レオーニ展」が行われた。その後、レオーニ家より72点の作品を板橋区に寄贈される。今回で3回目となるレオーニ展ではそのすべてが公開されるという。
展覧会の開幕に合わせて来日した、レオ・レオーニの孫であるアニー・レオーニ氏は、作品の寄贈や展覧会への協力についてこう話してくれた。「板橋区立美術館には世界一のレオ・レオーニ研究センターになってほしい。レオーニ作品を通して、世界をつなぐハブとなるような」。美術館とレオーニ家とのつながりは、板橋区の「絵本のまち」の理念が生み出した幸せな成果といえるだろう。
さて、3回目となるレオーニ展。過去2回の展覧会がレオーニ自身にスポットを当てた展覧会だったのに対し、今回は“仲間たち”の活動や作品も幅広く紹介。広告や書籍、プロダクトなど幅広いジャンルで優れたデザインを発表し、未来派の画家としても知られたブルーノ・ムナーリ。ルーマニア出身のイラストレーター・漫画家のソール・スタインバーグ。アメリカの労働者や移民を多く描き、アートを通して社会変革を訴えたベン・シャーン。著名なアーティストとの交流は、レオーニにとって大きな刺激や学びになったに違いない。