左翼連合系では、社会党の元議員、ディディエ・ミゴーが司法相になったが、彼を除けば、保守色の強い内閣である。

 とくに、ルタイヨ内相は、移民に関して過激な発言を繰り返し、批判されている。

バルニエ首相(右)とルタイヨ内相。ルタイヨ内相は反移民傾向が強い右派政治家として有名(写真:AP/アフロ)
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 マクロンとしては左翼連合と手を組むわけにはいかず、国会で過半数を得るためには、極右のRNの協力が不可欠である。ルタイヨを左翼連合は厳しく批判しているが、移民問題を国民投票にかけようというルタイヨの提案をRNは歓迎している。この点は重要で、内閣不信任案を否決するにはRN寄りの姿勢を示す以外に手はないのである。

 そのRNにしても、ジョルダン・バルデラ党首は、9月22日、「この『新しい』内閣は選挙結果を尊重せずに、こっそりとマクロン主義に戻ることを意味するものだ。この政府には未来がない」と批判し、場合によっては内閣不信任案に賛成する可能性を示唆した。

 左翼連合の一角、社会党のオリビエ・フォール書記長は、9月22日、「バルニエ内閣は第五共和制下で最も右寄りの政府だ。信念的にRNに歩み寄ると主張する議員たちで構成されている。移民問題の強硬派であるルタイヨ氏の内相就任が顕著な証拠だ。われわれはためらうことなく不信任案に投票する」と述べた。

不信任案提出や大統領弾劾の動きも

 バルニエ内閣は、来年1月までに来年度予算案を成立させねばならず、綱渡りの政権運営を迫られている。10月1日は、施政方針演説を行い、国会の論戦が始まった。バルニエは、財政健全化のために、支出削減と増税を実行する方針である。財政赤字を2029年までにGDPの3%以内に抑えるという。

10月1日、左派政党の議員らからブーイングが起こる中、国会で施政方針演説を行ったバルニエ首相(写真:ロイター/アフロ)
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 RNは、10月2日、バルニエ首相に「チャンスを与える」として、左翼連合が提出する不信任案には賛成しない方針を決めた。バルニエ政権の命運はRNに握られていると言ってもよい。

 さらには、大統領の弾劾まで視野に入れた動きが起こっている。憲法68条に弾劾手続きが定められている。国会議員の10分の1以上の署名で手続きが開始されるが、弾劾には、上下両院で3分の2以上の多数決と上下両院議員で構成される高等法院の3分の2以上の賛成が必要である。

 左派連合は10分の1以上の議席を有しており、弾劾審議請求は通ったが、左翼連合のLFIが提出した弾劾決議案は、10月2日、圧倒的多数で否決された。弾劾審議が行われたのは、第5共和制下では初めてであり、マクロン政権の不安定さを示している。

 今後のフランス政治の展開を注視する必要がある。

【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)『都知事失格』(小学館)『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(ともに小学館新書)『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。