石井紘基を視察した伊藤白水の動機

泉:この本の中で私が対談した紀藤正樹弁護士などと一緒に、石井さんは早い段階から旧統一教会やオウム真理教の問題にも取り組んでいました。地下鉄サリン事件の被害者への支援など、被害者救済に奔走していたのです。

 人を泣かせる悪さは許さない。泣いている人は助ける。石井さんは常にこの2つをセットにして取り組んでいました。石井さんが亡くなった後は、この問題を引き継いで、私は衆議院議員の時代に「犯罪被害者基本法」を国会で成立させました。

 オウム真理教はあのレベルの事件を起こしたので、ほとんど壊滅するところまで捜査が進みました。ただ、本当はセットで国が取り組まなければならなかったはずの旧統一教会問題は、政治とのつながりがあったため、あの当時は不問に付されました。警察も検察も手を出さなかった。時の権力との調整の中で、旧統一教会だけは残ったのです。

──2002年10月25日、石井さんは伊藤白水という名の右翼団体の代表に刺殺されました。亡くなる直前に「国会質問で日本がひっくり返るぐらい重大なことを暴く」と語っていたそうですが、石井さんの異様な亡くなり方について教えてください。

泉:石井さんは「国家が転覆するぐらいの大きなことを見つけた」「これを国会で質問する」と周りの人に言って、その質問を国会に提出する日の朝に殺されました。

 逮捕された男は「石井さんとの間に金銭的なトラブルがあった」と証言したのですが、刺殺した時に石井さんのお金には手を付けず、石井さんの手帳と資料だけを奪った。その時に奪われた資料はいまだに見つかっていません。

 後から刑務所でテレビの取材を受けた時に、「人から頼まれて殺した」とも言っています。

石井紘基氏が公用車に乗り込む直前に襲われた現場(写真:共同通信社)石井紘基氏が公用車に乗り込む直前に襲われた現場(写真:共同通信社)
刺殺事件の判決言い渡し後の記者会見で涙ぐむ妻のナターシャさん(右)と長女のタチヤナさん(写真:共同通信社)刺殺事件の判決言い渡し後の記者会見で涙ぐむ妻のナターシャさん(右)と長女のタチヤナさん(写真:共同通信社)

──伊藤白水の言うことが取材を受けるたびに変わるので、結局何が本当だかよく分からないということを、この本の中で紀藤正樹弁護士が言っていますね。

泉:分からないですね。少なくとも、お金のトラブルが殺害動機ということは、最高裁によっても否定されています。

 ひどいのは、警察も検察もちゃんと動機を調べていないことです。単なる個人間のトラブルということで済ませてしまっている。

──石井さんが国会で質問しようとしていた「日本がひっくり返るくらい重大なこと」とは何だったと思われますか?