「新宿タワマン刺殺事件」の被害者はかつてガールズバーを経営していたという。写真はイメージ(写真:Stock image/Shutterstock)
  • 新宿のタワーマンションに住む25歳の女性が、51歳男性に刺殺された事件。報道によれば、容疑者は愛車を売り1000万円以上を女性に渡したが、女性に冷たくされ犯行に及んだという。
  • 昨今、いわゆる男性の恋愛感情を利用し金銭を騙しとる「頂き女子」と餌食になる「おぢ」、という関係性が話題になっており、今回の事件と関連づけて論じる向きもある。
  • 作家の橘玲氏はこうした事件が起きるのは「エロス資本のマネタイズが容易になったことが背景にある」と分析。今後も同様の事件が起きると予測する。インタビューを3回に分けてお届けする。

湯浅大輝(フリージャーナリスト)

【連載:橘玲氏に聞く「エロス資本」】
(上)新宿タワマン刺殺事件を「頂き女子」文脈で語ってはいけない…橘玲氏が問う、エロス資本のマネタイズはダメなのか?
(中)橘玲氏が「頂き女子りりちゃん」マニュアルを分析…“ギバーおぢ”は単なる「金づる」、ナンパ師との類似性とは
(下)SNSが結びつける「エロス資本」と「おぢ」、女神化した女性と交際し一発逆転を狙う「無理ゲー」が不幸な事件を招く

「頂き女子」と「タワマン刺殺」、2つの事件は全く別の話

──新宿タワマン刺殺事件について詳細はまだ不明な点も多いですが、ホストに貢ぐカネを複数の男性から騙しとっていた「頂き女子りりちゃん」の事件を連想した人も少なくないようです。こうした事件が起きる背景には、男女の関係で何が起きていると分析していますか。

橘玲氏(以下、敬称略):このインタビュー依頼があるまで、どちらの事件もあまり興味がなかったのですが、週刊誌やネットの情報を見ると、この2つの事件はまったく別の話で、いっしょに語るのは無理があると思います。頂き女子はパパ活で、タワマン刺殺事件はストーカーの犯罪ですから、加害と被害の関係がまったく逆です。

 それでも両者に共通するのは、前回のJBpressのインタビューで話したように、男と女の性愛の非対称性と、女性の「エロティック・キャピタル(エロス資本)」です。

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 男はほぼコストなしにいくらでも精子をつくることができるのに対し、女は卵子の数に限りがあり、それに加えて、9カ月の妊娠期間を経て出産しても2~3年は授乳など育児をしなければならないので、ものすごく大きなコストがかかる。

 この非対称性から、ヒトだけでなく、両性生殖の同じような条件では、哺乳類や鳥類、魚類、昆虫に至るまで、性愛市場でオスが競争し、メスが選択することになります。人間ではこれが性愛の第1段階で、その後、モテ(アルファ)の男をめぐって女が競争するのが性愛の第2段階です。

 エロティック・キャピタルはイギリスの社会学者キャサリン・ハキムの用語で、女性なら誰でも知っているように、思春期が始まると同時に大きくなりはじめ、10代後半から20代前半にピークをむかえ、30代半ばを過ぎると小さくなっていきます。

 すべての男は、エロス資本の大きな女に引き寄せられるように進化の過程で「設計」されています。

橘 玲(たちばな・あきら) 作家
1959年生まれ、2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年刊行され、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30 万部を超えるベストセラーに。2006年、『永遠の旅行者』が第19 回山本周五郎賞候補作となる。2017年、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で新書大賞受賞。近著に『世界はなぜ地獄になるのか』、『テクノ・リバタリアン』など。

 資本=キャピタルは、マネタイズ可能な資産のことです。大きなエロス資本をもつ女性は、性愛市場でそれをお金に換えることが容易にできます。

 これまで女性のエロス資本を論じることは、フェミニストから「売春を正当化するのか」と批判されたのですが、ハキムの著書によってようやくこの単純な事実を指摘できるようになりました。風俗業(夜職)だけでなく、パパ活のような社会現象も、若い女性のエロス資本を前提にしないとまったく理解できないでしょう。