- 新宿のタワーマンションに住む25歳の女性が、51歳男性に刺殺された事件。報道によれば、容疑者は愛車を売り1000万円以上を女性に渡したが、女性に冷たくされ犯行に及んだという。
- 昨今、いわゆる男性の恋愛感情を利用し金銭を騙しとる「頂き女子」と餌食になる「おぢ」、という関係性が話題になっており、今回の事件と関連づけて論じる向きもある。
- 作家の橘玲氏はこうした事件が起きるのは「エロス資本のマネタイズが容易になったことが背景にある」と分析。今後も同様の事件が起きると予測する。インタビューを3回に分けてお届けする。
湯浅大輝(フリージャーナリスト)
【連載:橘玲氏に聞く「エロス資本」】
(上)新宿タワマン刺殺事件を「頂き女子」文脈で語ってはいけない…橘玲氏が問う、エロス資本のマネタイズはダメなのか?
(中)橘玲氏が「頂き女子りりちゃん」マニュアルを分析…“ギバーおぢ”は単なる「金づる」、ナンパ師との類似性とは
(下)SNSが結びつける「エロス資本」と「おぢ」、女神化した女性と交際し一発逆転を狙う「無理ゲー」が不幸な事件を招く
──タワマン刺殺事件の容疑者は「ロスジェネ」世代で、社会に冷たくされてきたなか、車やバイクという趣味の世界に生きがいを見出してきたとされます。被害者女性とつき合うために、それを売ってまで資金を捻出したことに同情する人もいるようです。
橘:そもそも被害者は死んでいるのですから、「大金を貸したのに返してもらえない」というのは加害男性の一方的な主張で、被害者には反論することができません。
週刊誌の報道からは、加害者の男が女性に異常に執着し、2年前にストーカー行為の疑いで逮捕されていることと、起訴猶予で“接近禁止命令”を出されていたことが明らかになっています。
その接近禁止命令は、被害女性が警察からの問い合わせに「(延長)しないで大丈夫」と答えたために解除されたのですが、その後、男は再び女性につきまとうようになり、凶行に至りました。これだけを見ても、「自分は被害者」という男の主張は自分勝手な自己正当化で、どこにも同情の余地はありません。
“死人に口なし”をいいことに、「趣味を生きがいにしていた純真な中年(弱者)男性が、頂き女子に搾取された」という物語をつくって、加害と被害を逆転させるような主張がネットに溢れているのは大きな問題です。
それに、こういう言い方をすると反発されるかもしれませんが、被害女性は銀座のキャバクラでナンバーワンになるほどの売れっ子で、その後は自分でキャバクラをオープンして成功しました。まさにエロス資本の最大化によって成り上がったわけで、そのような女性を1000万円程度のお金で自分のものにできると考えること自体が大きな勘違いです。