9割9分のおぢは粛々と生きている

:これも報道による知識ですが、加害者の男は妻と離婚したあと、実家で親と暮らしながらウーバーの配達員をしていたようです。こうした現実と、ホンダのNSXやバイクのNRなどの“レアもの”を所有するという「自己イメージ」とのあいだの大きなギャップが、今回の事件に至る背景にあると思います。

「ぼくらの非モテ研究会」が作成した「非モテ研用語辞典」には、「女神化」と「一発逆転」という言葉が出てきます。

 女神化は「一人の女性を女神として位置づけていくこと」、一発逆転は「恋人ができれば現在の不遇な状況が挽回され、幸せになることができると考えること」と定義されます(拙著『無理ゲー社会』小学館新書)。

 加害者の男は、被害女性を「女神化」し、自分のものにすることができれば、現実と自己イメージのあいだの絶望的なギャップが埋まり、「一発逆転」できると考えて、あれほどまで執着したのではないでしょうか。

「新宿タワマン刺殺事件」の和久井学容疑者(写真:共同通信社)

 社会がリベラル化するほど女性の選択のハードルが上がっていくので、性愛市場から脱落し、不本意な人生を送っている男性はたくさんいるでしょう。しかしほとんどのひとは、現実を受け入れて、誰にも迷惑もかけずに生きています。

「自分は特別で、そんな自分には特別な出来事が起こるはずだ」と勘違いした男と出会ってしまったことが彼女の悲劇でした。こうした男は世の中に一定数いるので、エロス資本のマネタイズはハイリスク・ハイリターンなのです。

──一昔前までは、恋愛感情を使った詐欺は男が女に行うのが一般的でした。これが逆になってきているように感じるのはなぜでしょうか。