なぜ政府や東京都は50%の株式を保有し続けるのか

 国・東京都が今後も50%の株式を保有し続けることは、東京メトロがいたずらに経営を左右されることを防ぐ意図が含まれている。

 例えば、2013年には大阪府堺市と和泉市を走る泉北高速鉄道が外資系投資ファンドのローン・スター・ファンドに株式を売却する方針を示したことがあった。泉北高速は大阪府などが株式を保有する第三セクターの鉄道事業者で、その株式売却の提案には大阪を地盤にする南海電気鉄道も手を挙げていた。

 南海と泉北高速は中百舌鳥駅で接続している。南海に株式を売却すれば、両線は一体的な運行が期待でき、それは沿線住民の利便性向上にもつながる。

 一方、投資ファンドのローンスターは鉄道事業のノウハウを持たない。そのため、泉北高速の株式は南海へと売却するのが自然だったが、大阪府議会はローンスターへ売却することを決定した。これに沿線自治体の堺市議会や和泉市議会が反発。また、沿線に立地する大学も南海へ売却するように要望書を提出した。

 この一件は、最終的に大阪府が保有株式を南海へ売却することで決着した。そして、泉北高速は2014年に南海の子会社になり、2025年には経営統合される予定だ。

 同年には、西武ホールディングスの再上場を巡って、傘下の西武鉄道と投資ファンドのサーベラス・キャピタル・マネジメントが対立する騒動も起きている。サーベラスは不採算路線の西武秩父線を売却するよう求めたが、西武は拒否した。地元の埼玉県も秩父線の運行継続を希望しており、西武を支持した。そうした経緯もあり、サーベラスの提案は受け入れられないまま事態は収束した。

 鉄道会社といえども民間企業なのだから利益を追求することは大事だが、経営に不安を覚えるような状態は利用者離れを加速させる。沿線住民や利用者から信頼を得ることは、鉄道会社にとっても重要なミッションで、それだけに国や東京都が東京メトロの経営の安定を保つために50%の株式を保有し続けることは注目に値する。